AI大格差 最先端の研究が明かす仕事と給料の未来

発刊
2026年5月22日
ページ数
248ページ
読了目安
378分
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推薦者

AI時代に起こる雇用や経済への影響
AIが経済や雇用などに与える影響について、様々なシンクタンク、国際機関、学者が発表している報告書や研究を紹介しながら、AIが引き起こす格差に焦点を当てている一冊。

AIの現実的な影響は「仕事がなくなる」ことではなく「仕事の中身が変わる」ことであるとし、その変化に対する準備ができていないことこそがリスクであると説いています。AI時代における価値とは、AIを使う使わないの話ではなく、AIのアウトプットを評価し、意思決定に落とし込めるかどうかであるとし、AIとの協働こそが鍵であるとしています。
ここ数年のAIの変化を俯瞰して捉えるのに役立つ内容になっています。

AIを使える人が勝つのではない

AIは、仕事の中身と給料の決まり方を変える。その変化は平等には訪れない。ここで生まれるのが「AI大格差」だ。AI大格差は、単純にAIを使うか使わないかの問題ではない。以下の3つが重なる時、格差は広がりやすい。

  1. 仕事の中身(タスク)が変わる
  2. AIの出力を見抜き、判断し、責任を持って意思決定に落とし込めるかどうかで決定的な差がつく
  3. その変化に合わせて学び直し、職を移れるかどうかで差が開く

 

AIは、もっともらしい文章を出し、事実と推測の境界を曖昧にすることもある。結論だけが綺麗で、根拠が薄いこともある。コード作成や分析でも事情は同じであり、間違っていることもある。そのため、AIは使って終わりではなく、その出力を評価し、直し、責任を引き受けられるかどうかが問われる。その力を持つ人ほど、仕事の価値は上がりやすい。

 

AIは新たな格差を生み出す

AIの急速な進歩による「雇用」への影響について、民間シンクタンクや国際機関が示している論点は3つである。

  1. 影響は想像以上に広い(特に先進国のホワイトカラー)
  2. 失業より仕事の再編成が中心で、賃金の決まり方が変わる
  3. 恩恵と痛みが同時に来るため、格差と移行の問題が避けられない

 

ゴールドマン・サックスが2023年3月に公表した報告書では、世界全体で約3億人の労働者が職を失うか、従来の職務の遂行が不可能になる可能性があると推定している。特に先進国では、業務の自動化が集中しやすい「オフィスワーク」や「事務補助業務」への影響が大きいとされ、米国だけでも全業務の約25%がAIによって自動化可能であるという分析がなされている。

 

IMFが2024年に発表した報告書では、世界の全雇用の内、約40%がAIに影響を受ける可能性があるとされる。この影響は単純な低技能職が自動化されるという従来の構図とは異なり、むしろ高技能労働者にも広く及ぶことが大きな特徴とされている。先進国では全雇用の内、約60%がAIの影響を受ける可能性があるとし、その内半数程度は、AIとの協業によって、生産性が向上し、労働者自身も恩恵を受けると見込む。一方で、残る半数程度の業務は、AIが中核業務を担うことで、人間の役割が縮小し、労働需要そのものが減少するリスクがあると指摘されている。

 

これらの報告書は、AIによって「誰が得をして、誰が損をするのか」という新たな格差の軸を生み出す可能性があることを示唆している。

 

AIをどう使うかが問題

AIやロボットなどによる機械化が雇用に与える影響を分析する際に、最近の経済学で重要になっているのが「タスク(仕事の最小単位)」に着目する視点である。その代表格が、MITのダロン・アセモグル教授とボストン大学のパスカル・レストレポ准教授による一連の研究である。

彼らの議論の出発点は、「自動化とは、人間のタスクを機械が代替する範囲が拡大すること」という認識である。彼らは近年の自動化は単なる生産性の向上ではなく「人間の仕事の一部が直接的に削られていく」プロセスだと見る。そのため、生産性が十分に高まらなければ、労働シェアは縮小し、賃金も減少しうる。

 

特に彼らが懸念するのが「まあまあの技術」と呼ばれるもので、劇的な技術革新ではないが、企業が人件費削減を目的に導入する、そこそこ実用的な技術を指す。例えば、コールセンターにおける自動応答システムや、定型的な文章の自動生成ソフトなどが該当する。こうした技術は、生産性の向上効果は限定的である一方、既存の雇用を置き換える力は強い。その結果、企業にとってはコスト削減になっても、社会全体では賃金の伸び悩みや格差の拡大といった負の側面が現れやすい。

 

こうした「自動化の負の影響」を相殺するためには「新しいタスク」の創出が不可欠である。即ち、人間とAIが協働するような形で生まれる新たな仕事、例えばAIを活用して顧客対応の質を向上させたり、データ分析に基づいて提案を行なったりするような役割である。

アセモグルが問題視するのは、現在のAIの多くが労働者を助ける「補完」よりも人間の仕事を置き換える「代替」に使われている現実である。生成AIが「人間を模倣する」ことに焦点を当てて設計されており、その結果として、「まあまあの技術」が増えてしまっている。

 

AIを単なる人間の代替手段としてではなく、人間の能力を引き出し、補完し、新たな価値を生む道具として活用できるかが、AI時代における雇用の未来を左右する最大の鍵である。

実際のところ、多くの人にとって起こるのは「仕事がなくなること」ではなく、「仕事の中身が変わること」である。AI時代には、これまでと異なるスキルや知識が求められる。その準備ができていなければ、未来の選択肢は狭まり、不安定な働き方を余儀なくされるリスクが高まる。