小売業のルールは「立地」と「品揃え」から「顧客経験」へ
数十年にわたって、「立地」と「品揃え」という2つの要素が小売業界のカギであり、小売店の成否を左右してきた。立地は店舗数と店舗の地理的展開戦略、品揃えはどの製品をどれだけ陳列するかの選定である。店舗配置、物流、在庫管理、マーチャンダイジング、店内フローの管理などすべてが、この2つの要素を中心に決定されていた。
しかし、市場は細分化し、加速しながら猛烈な勢いで変化した。デジタル革命による変化とピュア・デジタル・プレーヤーの出現の結果、顧客経験が全面的に最優先事項となった。そして、人々の期待が進化した。タッチポイントの細分化が進み、消費者は製品やサービスにアクセスする機会が増加している。そのため、様々なフェーズで効果的に、一貫性を持って、消費者の経験を管理しなければならなくなっている。
リテール4.0における10の法則
①不可視であれ
消費者が目的を達成するのに必要となる認知的・物理的努力を最小化しつつ、すべてを無理なく自然な状態にできるか否か。人々の現実的なニーズやウォンツに関する予想を中心に据え、顧客経験をデザインしなくてはならない。アマゾン・ゴーは、「不可視」のアプローチを代表するパーフェクトなケースである。
②シームレスであれ
スマートフォンは、あらゆる面で人々のパーソナル・メディアとなった。スマートフォンによって、人々は常につながっている。したがって、小売業者は、顧客の購買プロセスをデザインし、計画し、加速させるソリューションを実現することによって、顧客それぞれに適した状況で購買ができるようにしなくてはならない。オンライン・チャネルとオフライン・チャネルの相互補完は、小売業界の未来に向けたカギである。
③目的地であれ
現在、リテールとは、商品を消費者のバッグに入れさせることではない。長期にわたって継続する消費者とのリレーションシップをクロスメディアで築き、後に、その消費者に最も適したタイミングと方法で利益を回収することが基本となる。販売拠点は「経験拠点」となり、消費者の認識は行かなくてはならない場所から行きたい場所へと変化している。魅力的な来店目的とブランドの価値を生み出すためには、単にブランドを提示・展示するだけではなく、顧客に主体的に体験させる必要がある。
④誠実であれ
ビジネス上の接点を持つ人に対しては、それが顧客・協力者・納入業者であろうと、誰とでも相互の信頼関係を結び、育て、維持していく。今の時代におけるロイヤルティは、あるブランドを人に推奨するという形でも現れる。
⑤パーソナルであれ
とりわけミレニアル世代に属する人々は、今日、自分がユニークだと感じさせてくれる製品やサービスを期待している。つまり、自分が個人として認識されること、自分の必要性や趣味に合うように設計されたオファーを求めている。
⑥キュレーターであれ
デジタルの世界は、提供可能な財がほぼ無限にあることを特徴としている。したがって、人の目に留まるように製品とサービスを選別しながら、オファリングを選択・編集すべきだ。キュレーターになることで、物理的スペースの縮小・効率の悪さ・競合との差別化に関わる問題を一掃し、自社の優位を実現できる可能性がある。
⑦人間的であれ
あらゆるバリュー・チェーンにおいて、再び人間を中心にしなければならない。人間的なファクターが多くの産業で競争優位の主要な源泉になりうる。
⑧バウンドレスであれ
リテーリングは壁で区切られた1ヶ所に収まっているリアル店舗であるという意識を徹底的に超越すること。技術の進化と物流の発展によって、今日、小売業界の企業は超柔軟な形式で顧客に奉仕できる。
⑨エクスポネンシャルであれ
サードパーティーとの協力によって、自社のオファリングの限界を超えること。戦略的パートナーシップによって、顧客経験の向上が可能になる。
⑩勇敢であれ
ビジネスチャンスをつかむためには、ニーズを満たすのに必要な能力を伸長または獲得しなくてはならない。これは大きなリスクな伴うが、適正な発想に従えば、効果的に差別化を図り、抑制されたコストで異分野を探索することが可能になる。