大きな利益を創出する「価値移転」
巨大な富の源泉は価値の「創造」ではなく、価値の「移転」にこそ宿る。優れた企業の成長のきっかけを分析すると、そこには、ある場所では過小評価されているリソースを、別の高く評価される場所へと仲介し利益を創出する仕掛けが埋め込まれていた。資本主義的な成功に向けたこの仲介の仕掛けを「価値移転」と呼ぶ。
商売の基本原則は、仕入れたものに、付加価値をつけて高く売ることにある。すべての事業に伴うこの付加価値の構築を「価値創造」と呼ぶ。他方で、この世では無から有を生み出すことはできないので、商売には必ず何かしらの仕入れが伴う。
この仕入れは2種類に大別され、両者には大きな利益の違いが生まれる。
- 他社と同じ条件で同じリソースを確保するような一般的な仕入れ
- 特定のエコシステムでは過小評価されているリソースを安価に取得する仕入れ(価値移転)
すべての事業はこの価値移転と価値創造の組み合わせの上に成り立っているが、その比率は事業によって様々である。価値移転をうまく活用している事業は、特定のエコシステムでは低く評価されているリソースを別の市場に持ち込むことで急速に成長を実現しつつ大きな利益を生み出す。
リクルートが提唱する「リボンモデル」は、価値移転の仕組みをわかりやすく体現しているビジネスモデルである。特にリクルートの中核をなしてきた情報仲介型の事業群は、異なるエコシステム間のズレを見抜き、それを仲介する仕組みをつくりあげることに成長してきた。一方のエコシステムではありふれた情報でしかなかったものが、他方のエコシステムでは価値の高いリソースとして機能するのである。
価値移転を事業に埋め込む
資本主義的にも評価され、長期的に安定したビジネスを構築するためには、価値創造の営みと統合する形で、価値移転を事業に適切に埋め込むことが求められる。
価値移転は、以下の要素に分解することができる。
①価値体系のズレがある2つのエコシステムを発見する
価値移転が成立するには、2つの異なるエコシステムが存在し、一方のエコシステムでは供給が需要を上回り、均衡価格が低く、他方のエコシステムでは需要が供給を上回り、希少性が高いがゆえに均衡価格が高いという状態が求められる。
エコシステムが分離されているからこそ、需要や供給が混合せず、結果として価値の認識にもズレが生まれ、あるエコシステムでは「価値がない」「価値が低い」と見なされているリソースが、別のエコシステムでは「非常に価値がある」と評価されることがある。このようなエコシステムの分離と価値体系のズレが起こる場合には、以下の4つの代表的な要素がある。
- 空間的・物理的な隔たり:インターネット空間/オフライン空間
- 経済的・社会的な隔たり:発展途上国/先進国
- 法的・制度的な隔たり:法、制度
- 情報的・時間的な隔たり:情報の非対称性
価値移転を成立させるためには、これらの観点を参考にして、まずは分離された2つのエコシステムと、そこに眠る価値体系のズレを発見することが重要である。
②リソースを再定義して、移転対象として特定する
リソースとは、顧客やユーザーに提供する顧客便益の源となるものを意味する。具体的には、労働力、人材、有形や無形の資産、資金、情報などである。リソースは、それが価値あるリソースだと認識されていない状態で埋もれており、何かしらのテクノロジー進化や社会変化によって再定義され、リソースとして浮かび上がる。
価値移転の対象となるリソースを特定するにあたっては「このテクノロジーや社会の変化は、何をリソースとして再定義する可能性があるか?」という想像力が極めて重要になる。何らかの変化により再定義されるリソースを他者に先駆けて独自の視点で捉えることこそが「未来の価値体系の先取り」につながる。
③価値移転の関所を築き、ゲートキーパーになる
誰もが容易に仲介できてしまう状態では、2つのエコシステムが徐々に統合され、均衡価格が一致してしまう。そのため、利潤を確保するためには、エコシステムが分離されたままの状態において、仲介を独占的または少なくとも寡占的な立場で行い、リソースの希少性を保つことが求められる。これは外部経済と内部経済とをつなぐ「関所」を支配し、他社から邪魔されずに価値移転を自ら実行および制御できる門番のような立場である。これを「ゲートキーパー」と呼ぶ。
関所を構築し、ゲートキーパーとしての立場を確保するために活用される代表的な「道具」は、次の3つである。
- テクノロジー
- レギュレーション:広い意味での法制度(法令、判例、慣習法、条約、契約など)
- オペレーション:リソースの調達・加工・流通を効率化・規模化するための一連のワークフローや仕組み
この3つは独立して機能することもあれば、複数の組み合わせによって効果を発揮することもある。