なぜ相手に話がうまく伝わらないのか:言語学的背景
・聞き取りの誤解
私たちは未知の言葉や使用頻度の低い聞き慣れない言葉を耳にした時、自分のよく知っている言葉と聞き誤ることがよくある。とりわけ、音がよく似ている上に、文脈にも合う使用頻度の高い言葉があれば、さらに聞き誤りやすくなる。また、「相手はたぶん、こんなことを言うだろう」といった聞き手の側の予想や期待は音声の聞き取りにも強く影響する。
・文法解釈の誤解
日本語の日常会話では、言葉を省略することが多い。この省略された言葉を聞き手が復元する際の文法解釈の誤りは、かなり頻繁に起こる。
・多義的表現の誤解
「大丈夫です」「ヤバい」などは、どちらの意味にも解釈される。
・専門的表現の誤解
一般の人と専門家との間で、言葉の使い方や解釈が違っている場合がある。こうした言葉がある特定の中で使われる分には問題がないが、その文脈を離れると混乱をきたす場合がある。
・主観的表現の誤解
「面白い」「簡単」「素敵な」といった主観的な表現ほど、当てにならないものはない。相手がウソをついたわけではないとしても、人の主観はまちまちである。
・意図の誤解「間接的要求」
間接的な要求表現は、直接的な要求表現よりも丁寧だが、相手によっては、要求の意図が伝わりにくい場合がある。
・意図の誤解「間接的拒否」
誘いや依頼を直接的な表現でズバリと断るのは、相手の気分を害したり、人間関係をギクシャクさせたりすることになりがちである。そのため、大人同士の会話では間接的拒否の表現が多く用いられる。しかし、これが誤解の原因になりやすい。
なぜ相手に話がうまく伝わらないのか:心理学的背景
・言葉の省略による誤解
話し手が言葉を省略した場合、聞き手は、省略された部分を補って解釈しなければならない。その際には、その場の状況・文脈を手がかりとする。しかし、この文脈の手がかりが乏しい場合には、うまく補えず、誤解が生じやすい。
・予想・期待による誤解
聞き手や読み手の情報処理を助けるためには、内容を表すタイトルをつける。日常会話においても、私たちが人の話を聞く時には「相手はこんなことを言いたいのだろう」というふうに、大抵予想や期待を持って聞く。そのおかげで、話が頭に入ってきやすくなる。但し、この予想が強すぎて「相手の話はこうに違いない」と思い込んでしまうと、誤解の原因になる。
・スキーマによる誤解
「◯◯とはこういうものだ」といった知識の枠組みをスキーマと呼ぶ。スキーマは、知識のまとまりであり、知識の大きな単位といったものである。私たちは、色々なものに対してスキーマを形成し、認知的負荷を軽減し、素早く話を理解することを可能にする。しかし、理解や記憶が不正確になる場合もあり、スキーマに頼りすぎると、誤解を生む原因になることがある。
・記憶の歪みによる誤解
人から人へと話が伝わる内に、元の情報がずいぶん変わってしまうことがある。人は、見聞きした言葉を自分の経験に合致する方向に誤解しやすいという特性を持っている。私たちの記憶は、あまり当てになるものではないことを知っておく必要がある。
・他者視点の欠如による誤解
相手に何かを伝える場合には、その人の視点に立って伝える必要がある。聞き手は、一旦自分の視点で相手の言葉を捉え、その後から、捉え方を修正して、相手の視点で言葉を捉える。つまり、メタ認知は多大な認知資源を必要とする。多忙な状況においては、「相手がどう受け取るのか」について、十分な気が回らず、その結果、誤解を生む伝え方になってしまいがちである。
・気分や感情による誤解
私たちのコミュニケーションは、感情によっても大きく左右される。同じ言葉を聞いたとしても、聞き手の気分や感情の状態によって、意味解釈が変わる可能性があるからである。
コミュニケーションを俯瞰して捉える
相手に的確に理解してもらうためには、自分のモノの見方だけに捉われず、相手の立場、相手の視点に立って考え直してみることが欠かせない。会話中に相手の反応を見ながら、どこまでは伝わっているか、どこからが伝わっていないのかを判断することが必要である。また、会話の前にも相手の反応を予測することも大切である。
こうした自分のコミュニケーションを俯瞰して見ることを、コミュニケーションの「メタ認知」という。相手の言葉や振る舞いにある思いについて考え、理解すること、これがコミュニケーションにおいてメタ認知を働かせるということの基本である。
コミュニケーションのメタ認知には、以下の概念が深く関わっている。
- 視点取得:他者の視点をとる
- 心の理論:他者が何らかの行動を起こす時には、背景に気持ちや考えなどの心の状態がある
- 共感:相手の心の状態を理解したり共有する
- メンタライジング:相手の行動をその人の心を関連づけて理解する
- マインド・リーディング:相手の心の状態を推測する