短時間労働で豊かな国
デンマークでは、父親も母親も、国家官僚も企業幹部も、午後4時前後には子どもを保育園や小学校に迎えに行くという働き方をしている。フルタイムは週37時間で、残業はほぼなし。年に5-6週間の有給休暇を完全消化し、夏休みは3週間連続して取るのが普通である。
そんな働き方をしているのに、デンマークの1人当たりGDPは世界のトップ10に入り、日本の2倍以上という水準で、平均年収は日本の1.5倍という高さである。しかも、2022年には「世界競争力ランキング」で1位になっている。
デンマークの豊かさは、石油などの天然資源や、租税回避地のようなトリックに頼らず、生産性の高い経済を作るという正攻法でもたらされている。デンマークの戦略は、自らを「資源は人しかない小国」であると規定した上で、男女問わず労働人口を最大限に活用しながら、グローバル経済を柔軟に生き抜くというものだ。
人口が世界の0.07%の小国にも関わらず、おもちゃメーカー「レゴ」、製薬企業「ノボノルディスク」、コンテナ海運企業「マークス」、風力発電企業「ベスタス」など、世界に名だたる企業を擁している。そんな企業の競争力の高さが、豊かさを支えている。
しっかり稼ぐデンマークの仕組み
①老若男女、全員で稼ぐ
デンマークの働き方は、夫婦ともに稼ぎ手となる「2人稼ぎ主モデル」である。男女間の賃金格差はデンマーク5.4%に対し、日本は22%。女性が、小さな子どもや高齢の家族の世話をすることなく働けるよう、保育制度や介護システムなどのインフラを充実させてきた。
できるだけ多くの人に働いてもらうために重要な役割を果たしているのが「フレキシキュリティ」と呼ばれる労働政策であり、3つの柱で成り立っている。
- 柔軟な労働市場:企業が必要に応じて従業員を採用・解雇しやすい
- 十分な生活保障:失業手当の給付期間最大2年間、上限は月々50万5000円
- 求職活動や職業訓練の積極的な支援:職業訓練への参加義務
②人材の質が高い
1人当たり労働生産性は、デンマーク15万2200ドルに対し、日本9万2700ドル。評価されているのは、大学や大学院、職業訓練のための成人教育を含む高等教育である。教育費は全て無料。デンマークでは、学部卒では就職が難しく、大半の人が大学院まで進む。スキルアップを目指す人が政府の補助を受けて安価で学べる職業訓練プログラムも、数千というレベルで用意されている。
そもそも人々が学び続ける動機が強いのは、デンマークの人の雇用に対する安心感が、勤め先の企業や組織で生き残ることよりも、スキルアップによって市場価値を保ち続けることから来るためだ。民間セクターでは1年の内に4人に1人が転職するという流動性の高い労働市場ができあがっている。
③勝てるニッチで、海外市場で成功する企業
デンマークの主要産業は、2000年代以降、製薬などのライフサイエンス、再生可能エネルギー、IT・デジタル分野など、知識集約型産業へと急速に移行した。産業の新陳代謝が早く、競争力のある企業に労働力が移動していくプロセスには、フレキシキュリティ政策が密接に関係している。
④組織の生産性が高い
デンマークの生産性の高さは、社会に深く浸透したデジタル化に大きく関係している。生活に必要な手続きのほぼすべてがオンラインで完結する。電子マネーもかなり普及し、普段現金を触る機会がほぼない。
短時間労働は合理的という共通理解が根づいている
デンマークでは、リーズナブルな短時間労働が理にかなっている、という共通理解がある。この共通理解を支える要素の中で、日本との顕著な違いは次の3つ。
- 全員が仕事、家事、育児のすべてをやる社会である
- むやみに長時間働いても成果は出ないという考え方が浸透している
- 誰もが仕事以外の人生を大事にされるべき、という権利意識を身に付けている
1日を3分割する
デンマークには、8時間労働、8時間の自由時間、8時間の休息を意味する「8-8-8」という、昔から労働運動で使われてきたスローガンがある。かつて労働者の1日とは、仕事と翌日また働くために回復する時間だけだった。そこに「自由時間」という、全く新しい概念ができた。家族や友人と過ごしたり、読書したり文化的な活動をしたり、過ごし方は何でもいい。
3つ目の自由時間は、「価値ある市民」として貢献する、社会にとって意味のある時間として見られるところがある。自由時間にあたる平日の夕方以降に起きているのは、個人的な楽しみに限ったことではない。デンマークの人たちは、しばしば自らのイニシアチブで身近な問題を解決しようとする。仕事から離れた、身近なコミュニティーや社会の課題に関わる時間の余裕を持ちやすいことが、他人と一緒に行動することで必要な変化を起こせると信じられる「社会的効力感」を生み出している。