後継者不足時代の事業承継

発刊
2025年11月17日
ページ数
240ページ
読了目安
272分
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推薦者

事業承継が難しい根本的な理由
大塚家具の元社長が、事業承継の難しさを当事者の視点から解説している一冊。
ファミリービジネスの事業承継において、世代間の価値観の違いこそが、事業承継を難しくするとし、その中で生まれる当事者の葛藤が自らの実体験とともに語られています。

人口減少による人手不足時代にますます困難になる事業承継のこれからについて、経営者が考えなければならない視点が書かれています。

事業承継の意義

事業承継はファミリービジネスを念頭に議論されるテーマである。日本においては、企業の90%以上がファミリービジネスと言われ、圧倒的多数を占める。ファミリービジネスは、所有と経営が一致していることが多いため、リスクが取りやすく、世代交代まで1人の経営者が長期間経営することも多いため、長期視点での投資がしやすいことから、イノベーションの促進にはもってこいの環境とも言える。

他方、同じ理由が負の側面につながることもある。固有の価値観を重視することが経済合理性の軽視や過度な保守性につながったり、所有と経営が一致した強力なリーダーシップが長期間続くことが、不正や縁故主義につながったり、イノベーションを阻害したりすることもある。

 

ファミリービジネスのこうした負の側面を解消するのが、事業承継による世代交代である。事業承継により経営者が替わり、若い世代が経営の実権を持つことで、新しい経営手法の導入、イノベーションの促進、不正・縁故主義の一掃といった効果が期待できる。

しかし、現代の事業承継は必ずしも円滑には進まない。「家」制度の規範が「家業」承継のコンセンサスだった時代と異なり、事業や会社に関する価値観や世界観が世代間で異なることもある。事業環境の変化も急速である。

 

事業承継における葛藤の根本原因

事業承継における葛藤は、表面上は事業についての具体的な意見対立に見えていても、その裏側には根本的な価値観の対立があり、それが真の原因になっていることが多い。典型的な葛藤は、親世代と子世代という異なる価値観の葛藤である。つまり、「事業」や「会社」が誰のためのものかという事業観、会社観や「事業」や「会社」をめぐって「誰の利益を優先すべきか」という価値観の違いである。

 

事業は株主だけで成り立っている訳ではない。従業員や顧客、サプライヤーなど多くのステークホルダーとの関係のもとに成り立っている。親世代が大部分の株を所有しているとしても、子世代としては、彼らの好きにすればそれで良いと突き放してしまうことは憚られる。株主の気ままに任せるか否かは真剣に検討すべき問題になる。

 

世代間の価値観の対立

戦後の昭和は、戦前の制度の名残である「家」の価値観と規範意識を持ちながら新しい制度を運用してきた。個人主義・資本主義の中で、従業員の高い忠誠心と献身的な働き方が保たれてきたのは、「家」の価値観と規範意識を企業経営に移植することができたからである。

日本の経済や社会に根強く存在している「家」と「家業」の価値観から、いち早く自由になっているのが「戦後の創業者」である。そして、事業承継において最も葛藤を生じやすいのが「戦後の創業者」からの承継である。

 

「家」の規範と価値観の基本原理は「家」の継続である。家の当主の責務は、家の財産、家業、祭祀を先祖から受け継いで次の世代に受け渡すことであり、それができなければ「先祖に顔向けできない」ということになる。こうした規範の影響下にないのが「戦後の創業者」である。彼らの多くは、個人主義の価値観のもとで創業し、高度成長を支えた「競争と達成」の価値観のもとに、個人の自己実現の文脈で事業を成長させてきた。

 

日本的な「家」の規範や価値観のない文化において、ファミリー企業の経営者の退任スタイルは、次の4つに分類されている。

  1. 帝王型:生涯にわたって支配したいというマインドセットにより、後継者の必要性を無視し、次世代を育成しない
  2. 将軍型:次世代の失敗を理由として戻ってくることを目論んでおり、次世代を育成して引退する動機は薄い
  3. 大使型:職務の大半を次世代に委譲し、会社を代表するような役割は保持し、段階的に引退する
  4. ガバナー型:退任日を決めて公表し、その任期を通じて計画が進められる

1と2については、次世代のリーダーではなく自分自身のことを中心に考える傾向にあり、その自己中心的な視点はスチュワード(受託責任)的な行動を弱めると言われる。

 

自己実現の手段として事業を始めた「戦後の創業者」にとって、会社は会社を作った創業者個人のアイデンティティそのものである。彼らの規範には「継続」や「継承」が組み込まれていない。それゆえ、事業承継が難しい。

 

一方、従業員は会社を運命共同体とみなす。これは日本型経営の良さと、オーナー経営者の強いリーダーシップのメリットの両方が取れるので上手くいく。しかし、承継が難しいのでサステナブルではない。

組織に求心力を持たせるためには、心理的つながりの要素が必要になる。かつての「家」的運命共同体とは異なる、新たな統合のストーリーや価値観を作る必要がある。この点、ファミリービジネスの中には、創業来の特有の価値観を持っているところも多く、有利な面もあるかもしれない。但し、その価値観が若い世代の価値観と合致して彼らをつなぎ止められるかどうかはわからない。