「チャンス」に出会ったら、腹を決めて勝負しなければならない
麻雀では、細かなスキルや読みも大事だけど、結局は押すべき局面で押せるか、引くべき局面で引けるか、その「押し引き」が勝敗の9割を決めると言っても過言ではない。これは、ビジネスの世界にも通じるものがある。
麻雀というゲームは世の中の縮図のようだ。常に「平等」な状態から始まる将棋と違って、麻雀ではこの世の中と同じで配牌からして不平等。それでも、良い配牌を得た人が勝つとも限らない。ツモを積み重ねていく中で、実力と努力で配牌をひっくり返すこともできる。
仕事も人生も運に左右されるが、最終的には努力を怠らなかった人が生き残っていく。経営者も短期的に運が良いだけでうまくいく人もいるけれど、調子に乗って本物の実力をつける努力を怠れば長くは続かない。その理由は運で勝っているにも関わらず、それが自分の実力だと勘違いしてしまうからだ。
麻雀において重要なのは、期待値の高い、つまりリスクが小さくて大きなリターンが見込める「チャンス」が目の前に現れた時に大きく勝負に出ること。普段は手堅く打っていたとしても、その時ばかりは腹を決めて勝負する度胸が必要だ。サイバーエージェントのビジネスでは、スマホが世の中に出てきた時がそうだった。ガラケーからスマホへの移行が始まり、普及率が15%くらいになった頃、渋谷区や港区界隈ではもっと普及率が高く、皆便利さを実感していた。そこを逃さず、サイバーエージェント全体のスマホシフトを掲げ、あらゆる部門から優秀な社員を異動させて大号令をかけた。
優秀な人材をスマホに注力させれば、当然、これまでガラケーやPCを主体としていた既存事業の売上は減るかもしれない。しかし、たとえ一時的に売上が下がってもそれを遥に上回るリターンが望めるなら構わない。結果、その後のサイバーエージェントは大躍進を遂げた。
限りなくリスクが小さく、成功すればリターンが莫大な勝負に出たつもりだった。「期待値」の大きさに勝負所を感じたからこそ、一時的に全体の業績を犠牲にしてでも、スマホシフトの勝負に出たのだ。
誰もが「8割は勝てそう」と思えるような期待値の高いチャンスがあっても、今持っているものを捨てる決断ができない経営者は結構多い。高い確率で大きく勝てる可能性があるのに、失うことや批判されることを恐れて慎重になってしまい、レアケースの負けのリスクの方に目がいってしまうのだ。即断即決できず迷っていると、チャンスはあっという間に去っていく。
自分の欲に負けない
麻雀界のカリスマ桜井章一さんから学んだ中の1つで、特に大事だと思うのが「何が起きても自分のせい」という姿勢だ。会社を経営していると、本当に色んなことが起こる。麻雀と一緒でビジネスの世界では、誰もが理不尽な確率や偶然に左右される。そんな中、経営者は「言い訳」をしようと思えば、いくらでもできてしまう。「景気が悪くなった」「競合他社が現れて価格競争を強いられた」「社員がちゃんと働かなかった」
しかし、そんな「言い訳」ばかりしている人の会社に投資をしたり、働いてみたいと思ったりする人がいるだろうか。口から言い訳で出てしまう経営者は心構えの時点で既に負けている。結果として生じた状況に対し、何があっても全てを自分で引き受ける。そんな姿勢の経営者だけが、あらゆる事態に対して粘り強く対応し、事業を継続していくことができる。
麻雀でわかってきたことは「みんな、自分のタイミングで勝負して自滅する」ということ。せっかく余暇に麻雀をしているのだから楽しみたいというのが人の心情。しかし、そうすると上がれる確率の低い不利な局面であっても、欲望のままに攻撃に参加して手痛い失点を食らう。
そもそも麻雀は4人でやっているので、上がれる確率も大体1/4だ。確率を意識すれば、4回に3回は防御のために手を崩して降りてもおかしくない。それなのに、打っているとなぜか毎回勝負したくなってくる。この気持ちを抑えなければいけない。
同じようなことはビジネスの社会でも頻繁に起きている。経験を積むと一度成功したパターンが忘れられない。時代も、取り巻く環境も、自分の年齢も全てが変化し違うのに、過去の成功パターンと同じようにやって失敗する人は多い。麻雀は配牌だけでも約985億通りあるらしく、同じ状況が生まれる確率はないに等しいが、麻雀牌以上に多くの物事や人の事情が複雑に絡むビジネスの世界で、成功の再現を望むのは非常に厳しい。にもかからわずそれを望むのは、新たなチャンスを我慢強く待つことができず、自分の欲に負けている。
人生も仕事も「結局は運だ」と投げやりになりがちだが、そこで嘆くのではなく正面から向き合って、振り回されても冷静でいられるか、一生懸命少しでも良くなるように対処しているか、それが勝負強い人と弱い人を分けている。