7つのプライシング・ゲーム
ビジネスリーダーは、価格戦略に基づき「価格設定の前にすべき選択・意思決定は何か」と「ビジネス・市場・社会に自社の価格が及ぼす現実的な影響」の2点に目を向けることが重要だ。戦略的視点で価格を設定できれば、ときに自社や業界で当然とされてきたプライシング・モデルが再形成され、競争優位性の向上や戦略の自由度拡大にもつながる。
プライシング戦略は「利用可能な資金の量と、それがどう流れ、誰の手に渡るのかを決めることによって市場を形成する、ビジネスリーダーの意思決定」であり、7つのプライシングゲームで定義される。戦略的プライシングのゲームボードとなる枠組みは「プライシングの六角形」だ。六角形の中の7つのプライシングゲームの配置は、価格設定の3つの情報源(コスト・競合・価値)、4つの経済的視点(価格弾力性、価格区分、ゲーム理論、需要と供給)、市場特性の間の相互作用を踏まえた位置付けである。各プライシング・ゲームは6つの市場の潮流の影響を受ける。
①バリュー(価格)・ゲーム:特有の強みがある商品の価格を顧客が感じる価値に合わせる
差別化要素について納得感のある説明ができ、価値を高めるプライシング・モデルと調和させれば、企業は成功する。
②ユニフォーム(一律価格)・ゲーム:すべての顧客向けに一律の価格をつけて最適化する
売り手は、価格を下げれば、数量は上がるがマージンは下がるというトレードオフを勘案しながら、最適化した一律の価格で、利益を最大化させることを狙う。
③コスト・ゲーム:コモディティ化した商品の市場で価格と連動した効率化を進める
コストに利益を上乗せしたコストベース型で価格設定する方法は、変動率が高く、いくつかの小規模サプライヤーが大口顧客をめぐって競い合う市場では有効である。売り手にとって必要なのは、最もコストが低く効率的な価格を実現するという共通目標に向けて、顧客とも協力しやすいプライシング・モデルをつくることだ。費用対効果の高い形で商品を調整することが最も重要になる。
④パワー・ゲーム:集中度が高い市場で、立場を理解した交渉を武器にバランスをとる
標準化された商品を扱い、少数の売り手が少数の顧客と交渉する市場では、大口取引を1つでも失えば、売り手は大打撃を受ける。このような市場構造でよく用いられるパワー・ゲームでは、売り手は競合各社に対して優位性があるかどうかを顧客別に理解することが極めて重要である。微妙なパワーバランスの中で価格と調和させられるプライシング・モデルにしなくてはならない。
⑤カスタマイズ・ゲーム:競合を見ながら、商品・サービスと値引きをカスタマイズする
数百や数千もの顧客に一握りのサプライヤーが商品・サービスを販売している業界では、中核となる商品・サービスの内容が大体同じでも、交渉条件や補足的なもので、各取引に独自性を出すことができる。ユニフォーム・ゲームとは正反対で、価格は全く統一されていない。この場合には、個々の顧客に対する値引きが価格の違いをつくる主な手段となる。
⑥チョイス(選択肢)・ゲーム:セグメント化された商品・サービスで顧客行動を形成する
数社が多様な商品・サービスを幅広い価格で提供している市場では、個々の価格そのものよりも、各商品・サービスが他と比べてどう違うかが重要になる。機能面だけでなく情緒的な側面も含めた商品・サービスの提供の仕方が顧客の選択に影響する。つまり、価格設定の正確さよりも、行動バイアスがはるかに結果を左右する。適切な品揃えをすることが、リピーターが段階的にアップグレードし、より利益率の高い選択肢をとる動機づけとなる。
⑦ダイナミック・ゲーム:リアルタイムの動きに基づいて価格を変動させて管理する
需要が変動するが、キャパシティは固定化されていて、限界費用が低く、時間とともに競合品の価格も絶えず変化する場合、価格設定はダイナミックになりうる。この場合、様々なデータを高頻度で取得し、分析処理し、あらゆる時点でそれぞれの顧客に最適な価格を割り出すためのテクノロジーが重要となる。
自社の状況にすぐに切り貼りできる汎用的なプライシング戦略は存在しない。7つのプライシング・ゲームのどれを選ぶかは、プライシング戦略を策定する場合に検討しなければならない。適切なプライシング・ゲームを選び、実行するためには、六角形の基盤となっているレイヤー構造についても理解する必要がある。
- レイヤー1:情報源(コスト・競合・価値)
- レイヤー2:経済的視点(価格弾力性、価格区分、ゲーム理論、需要と供給)
- レイヤー3:市場特性(買い手と売り手の集中度、顧客ニーズの多様性などの組み合わせ)
- レイヤー4:市場の潮流(市場分散化、イノベーション、デジタル化、カスタマイズ化、市場集約化、コモディティ化)
- レイヤー5:組織能力