感性的な選ばれる理由をつくる
機能やスペックが成熟し、完成的な評価尺度が判断基準となる現在は、機能ではなく意味(WHY)をもって購買活動がなされるようになっている。ブランドパーパスに共感する、顧客幸福度が高いものが支持されるということは、WHYが重視された購買活動がなされるということ、感性的な選ばれる理由をつくるブランディングの必要性はますます高まっている。
マーケティングが数字を基準にしたWHATベースの視点だとすれば、ブランディングは「私たちは何がしたいのか」「消費者にどう思って欲しいのか」という、自分たちのWHYを考えるものである。「なぜやるのか」を追求せずにつくられたブランドは、お客様に見つけ出されず、埋もれていってしまう。「なぜこれをやるべきなのか」という、美しい理由に辿り着くまで考え続けることが大切である。
ブランディングはブランドが持つ「らしさ」、つまり本質的な価値を見出し、ターゲットに伝えること。そこから「好き」「信頼」「応援」というような気持ちを生み出し、「選ばれる」状況を戦略的につくりあげる活動である。
ブランドの捉え方
ブランドは、中心にある「コンセプト」の周囲に小さな「タッチポイント」がある構造になっている。サービス、人、モノ、単独の商品群からコーポレートまで多岐に及ぶ対象物全てが、ブランディング可能なかたまりである。但し、これらを戦略的にブランドにするためにはコンセプトの設定が必要である。
コンセプトとは、誰にどう思って欲しいのか、その特徴や魅力、優位性などをお客様に伝えるための魅力的な言葉である。お客様は直接コンセプトに触れる必要があるとは限らない。商品、ロゴデザイン、キャッチコピー、広告、PR、店舗、イベント、WEBサイトなどのあらゆるタッチポイントを通じて、お客様にコンセプトを感じ取ってもらう。その際には「一貫性」が重要になる。
コンセプトは、大きく4つのタイプに分け、市場やクライアントのニーズ、プロジェクトの状況から適切な型を選んでいる。
- 他にはない圧倒的機能差
- 特定ターゲットにとっての圧倒的便益
- 課題解決型/市場優位型コンセプト
- 理念体現型
コンセプトは誰もが簡単に覚えられることが重要である。あれもこれもと全てを盛り込むとぼやけてしまうので、1つの角度に絞り込む。
勝てるコンセプトを見つける
マーケティングリサーチとターゲット定義は、勝てるコンセプトを見つけるための前段階。ここでコンセプトの種を見つける。
- 己を知る:自分たちの「らしさ」や強みを知り、解決したい課題を探す。「なぜやるのか」を徹底的に考え抜く。
- 敵を知る:市場や業界を理解する。競合=同じ業態とは限らないため、自分で疑問を持ちリサーチ範囲を設定する。
- お客様を知る:お客様自身におくのはもちろん、インフルエンサーやSNS、雑誌などでどんな発信が響くのかを考える。
どの角度から攻めるのかというところからまず探し出し、選ばれる理由を徹底的に洗い出す。そのためには、常に仮説を立て検証する。リサーチと言っても数字やデータを見るだけでなく、左脳で調べて右脳で発想するような、洞察と創造が同居する作業である。最初の印象と、時間をおいて論理的にそれを見つめ直した結果の、その両方を見ながら考えを深めていく。
ブランドには人格がある。人格をつくるには、人が何に共感し、気持ちを動かされるのかを知っている必要がある。そのためには、日々自分の感じる心=感受性を磨いていなければならない。
どんなブランドにするかを考えるためには「誰のためにやるのか」を考えることが重要である。ブランディングを行う際は、「30代女性」から一歩進んで、「このターゲットならNetflixでこの番組を見るだろう」という認識を持てるまで、人物像を鮮明にする。年齢、性別、既婚か未婚かなどの属性に加えて、価値観、センス、ライフスタイルなどもイメージすると、解像度が高くなる。ターゲットと自分を比べるのも解像度を上げる1つの手である。また、「ターゲットが24時間をどのように使っているか」という視点も重要である。
ターゲットは、常に2種類のターゲットを想定する。
- イメージターゲット:開発の目安となるターゲット(ブランドの象徴、ロゴや環境などのデザインイメージのきっかけ)
- リアルターゲット:商売の目安となるターゲット(実際の購買者の大多数)
イメージターゲットは売上の大きなボリュームにならないかもしれないが、彼らが愛用、おすすめするシーンをSNSなどで見て、リアルターゲットが興味を持ってくれる。
ターゲットの定義ができるようになるコツは、とにかく人を観察することである。その人がどんな属性でどんな価値観を持っているのかを想像し、それをキャッチコピーのように言語化し、ある程度のグループにまとめる。