利他の新たなロジック
利他とは、私たちは自分だけでなく他者のために力を尽くすべきというアイデアに他ならない。利他は深い生物学的本能に促されているが、脆弱だ内省的思考によって強化され、形成される必要がある。
相互の信頼を醸成し、協力を可能にするのは利他に他ならない。協力こそが文明を生み出すことを可能にしてきた。それゆえ利他は、人類が築き上げてきたあらゆるものの核であり、将来私たちが築くであろうものの核でもある。また、利他は充実した個人の人生に決定的な重要な要素でもある。
インターネットには、この利他をターボチャージするポテンシャルがある。人のネットワークの規模が増すと、利他についての考え方に大きな変化が起きる。ネットワーク時代には、以下の3つの特徴がある。
- 非物質的なものが私たちの生活でますます重要な役割を果たしている
- そうしたものを無限の規模で提供することが簡単にできる
- みなが見ており、何かを提供する行為は「評判」に無限のインパクトをもたらす。
この3つの組み合わせを見ると、個人も組織も、将来利他が果たしうる役割を強化したいと考える理由が浮かび上がってくる。利他を単に気高い行為として考える必要がなくなり、基本的な戦略として考えることが可能になるのだ。
利他を戦略として使っても構わない
今日、利他の行為をすれば、非難の的にならずに済むことはまず不可能だ。否定的な態度をとる人は大勢いる。利他について考える時、普通は長期的な結果を評価しているのではなく、単に寄付者の動機が評価されている。では、結果よりも動機を気にするのは、本当に正しいのだろうか。
何かを与える行為の背後に様々な理由があっていいし、気分が良くなってもいい。そう考える方が、背後にある動機のニュアンスよりも利他行為の有効性に自由に焦点を当てられる。利他の行為が救命や生活向上をもたらすなら、利他を実践する人がその行為から喜びや評判を得ていても構わない。利他というものを、様々な要因に動機づけられた意識的な戦略として考えられる世界を歓迎すべきだ。誰かの利他行為に別の動機があるかもしれないからといって、非難する必要はない。
金銭的寄付以外の利他の方法
伝染する利他とは、小切手を切ることではない。最も有効で心を動かす利他の行動とは、時間やエネルギー、才能や愛を、特定のニーズに合わせてカスタマイズして提供したものだ。こうした贈り物は誰でもできる。金銭的寄付以外の贈り物には、次の6つの方法がある。
①アテンション:関心を向ける
自分のことばかり考えるのをやめ、他者とその人のニーズに進んでアテンションを向ける意思。そのつながりの行為を起点にすれば、何でも起こりうる。ただ誰か他の人に、そしてその人のストーリーにアテンションを向けるだけでいい。
②ブリッジング:対立の架け橋となる
対立する人々とコミュニケーションをとろうとする意思は、重要性を増している。ブリッジングの鍵は、自分の敵と実際に対話をすること、さらに顔を合わせること。そして、誰もがその人固有のストーリーを持った人間なのだと考え、直感的に意見が違うと思う人々に、本当の意味で耳を傾ける用意をすることである。
③ナレッジ:知識をシェアする
知識には無限の価値がある。知識のシェアは、利他の一例として捉えるとさらに強力になりうる。他者が恩恵を受けられる知識を持っているなら、どうすればそれをシェアしてさざ波効果を生み出せるか、考えてみるといい。
④コネクション:人と人をつなぐ
バイラルに伝染する利他の最も重要な形態は、人が他者とつながるのをサポートすることだ。最もシンプルな方法は「紹介」だ。特別な人が新たにネットワークに加われば、ネットワークの全員が恩恵を受けることが多い。ネットワークが豊かであるほど、アイデアやリソースがシェアされ、さざ波効果の伝染が起きる可能性が広がる。
⑤ホスピタリティ:もてなしの心を広げる
ホスピタリティは、互いのつながりを求める私たちの最も奥深い本能に触れる。そしてホスピタリティを経験するたびに、お返しをしたくなる。家に人を招いてお茶を1杯出すだけだとしても、その利他の行為は、その後何年もその人の頭に残るかもしれない。
⑥エンチャントメント:魅力を生み出す
私たちは、美、驚き、笑い、超越などのエンチャントメントの要素を心から求める。ミュージシャンや画家、写真家、ライターなどクリエイティブで魅力を生み出せる人たちは、計り知れない価値を持つ贈り物を提供できる。
利他を拡散するものに変える方法
単なる優しさの行為から伝染する利他へと行動を飛躍させるのに役立つ可能性のある実践方法は次の5つである。
- 本物の感情を解き放つ
- 突拍子もなくクリエイティブになる
- 深いところから勇気を掘り起こす
- コミュニケーションをとって協力する
- クラウドファンディングやSNSなど増幅装置を構築する