不健康と環境破壊をもたらす食料システム
海の中のプランクトンから国家の統治者まで、この地球上の全ての生き物は、食料システムに捕らわれている。食料システムは、もはや単なる食べ物を得る手段ではない。地球上で最もうまくいっている、最も革新的で破壊的な産業の1つだ。
人間が増えるにつれ、ほぼ全ての野生動物は減少していった。1万2000年前と比べると、野生動物の生物量は85%も減っている。貪欲さを増す食料システムが自然界に大きなダメージを与えてきたことが原因だ。多様な生物の命を支えてきた土地は、今では人間のためだけに耕されている。
食料システムは多くの温室効果ガスを排出しており、森林破壊や干ばつ、淡水汚染や水生野生生物の減少などの主な原因となっている。これら全てが今度は、食料システムを脅かす。
現代の食料システムにおいて最も安価で豊富な食材は砂糖、小麦粉などの精製された炭水化物、脂質だ。私たち人類は生物学的に見て、これらの食材をとても欲しがるようにできている。人類はエネルギーを手に入れるのが困難な世界で進化してきたため、脂質や糖質の多い食べ物には目がないのだ。その需要に応えるため企業は加工食品の開発と販売促進に投資をする。すると市場が拡大し、規模の経済が働き価格が下がる。先進国では今や不健康な食生活は、予防可能な疾患や死亡の最大の原因となっている。
私たちの食欲や行動が、食料システムの在り方に大きく影響している。私たちが食欲や行動を正せば、食料システムも良い方向に変えていくことができる。
ジャンクフード・サイクルから抜け出す方法
私たちが太ったり健康を害したりするのは、その原因となる食べ物で溢れた世界に暮らしているからだ。私たちの体は、私たちが作り上げた肥満促進環境に全く適応していない。つまり、このジャンクフード・サイクルから抜け出すためには、私たちは取り巻く環境下、あるいは私たちの体のどちらかを変えなければならない。1つ目の選択肢は2つ目の選択肢より難しい。それは政治的決断が必要だからだ。
ほとんどの食品メーカーは、製品に家庭料理で使う量をはるかに超えた大量の砂糖と食塩を使っている。砂糖や食塩が、もっと食べたくなる味の決め手となる。新鮮で風味豊かな様々な材料を使わない分、そうしないと味気なくて食べられないのだ。何十年にもわたり大量の砂糖と食塩を含む加工食品を食べ続けた結果、私たちの味覚はそれに慣れきってしまい、今では食べるもの全てにその味を期待するようになった。その結果、イギリスで売られている砂糖の85%、食塩の75%は食品メーカーで使われている。
「砂糖・食塩利用税」を導入すれば、メーカーは使う量を減らすだろう。しかし、政治家はこの提案を取り上げない。貧しい人々の楽しみに課税すると非難されたくないのだ。政治家たちはまた、国内の食品企業の競争力を削ぐことや、経済の足を引っ張るようなこともしたくないのだ。
食料生産が気候変動に影響する
環境悪化の影響は突然、劇的な形で顕在化し、産業全体に不意打ちを喰わらせることがある。1つの種や農作物が獲れなくなると、自然のシステムと人間が作ったシステムの両方に、様々な影響が及ぶことになる。
気候変動は、私たちの主要な食料にとっても大きな脅威となりつつある。しかしまた、私たちが作り上げた食料システムこそが、環境破壊の最大の原因でもある。土壌の劣化、水質汚染、渇水、森林破壊、生物多様性の崩壊のどれをとっても、その第一の原因は今日の食料システムにある。さらに、化石燃料産業に次いで、気候変動の大きな原因となっているのも食料システムだ。
人間の活動による気候変動の主な原因は、二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素の3つの温室効果ガスだ。食料生産は、人間の活動の中で、3つのガス全てを排出する唯一の分野である。農業、食品製造から輸送、小売までの食料システム全体を含めると、世界の温室効果ガス排出の25〜30%は、食料システムに起因している。その主な道筋は以下の4つである。
- 自然の土地の農地への転換や、農地が森林に再生されないことによる損害
- 農地、特に泥炭土からのCO2の排出
- 食料システムのあらゆる過程における化石燃料の使用
- 農業によるメタン及び亜酸化窒素の排出
牛などの反芻動物は、植物の繊維質を発酵させて消化している。この時、動物の胃の中ではメタンガスが発生し、げっぷとして排出される。さらに反芻動物の排泄物からもメタンと亜酸化窒素が排出される。これらは、イギリスの農業による温室効果ガス排出量の2/3を占める。
家畜の飼育を減らせば、大気のメタン濃度に、直接的に、比較的早く影響を及ぼすことができる。削減の程度が大きいほど、冷却効果も大きくなる。食肉生産を減らすことは、手遅れになる前に早く気候変動を食い止める上で、極めて限られた方法の1つである。