FTAとは
経営者が通商ルールの変化に目をそむけ、思考停止したまま「昨日と同じ」マネジメントを続けていると、ある日突然、経営環境は「冬の季節」へと突入する。だが通商ルールの変化に備えていれば、それを千載一遇のチャンスとして生かすこともできる。
通商ルールの中で最もニュースに登場することの多い「FTA」とは、「Free Trade Agreement」の頭文字を取ったもの。「自由」な「貿易」を実施するための「協定」だ。
FTAを巡るニュースのほとんどは、通商の中でも「通商交渉」に特化しており、企業の「通商リテラシー」は低い。JETROの調べによれば、2017年時点でも、FTAを活用している企業の割合は、調査対象企業の内45%に留まっている。中小企業などを中心に、FTAに対する理解が不足しているためだ。
ビジネスパーソンが本当に意識しなければならないのは、交渉した「後」の情報だ。
FTAは諸刃の剣
FTAによって、まず企業のビジネスが変わる。コストの多くを占める関税が低減されれば、外国から商品を輸入するコストを抑えることができる。海外に製品を輸出する場合でも、関税が下がれば、その分、コスト競争力は高くなる。これまで投資することができなかった外国企業とのアライアンスも可能になる。これまでならば入札することができなかった海外の公共事業などに参加することもできる。
ただ同時に、取引先や市場環境が変わることもある。会社の大口取引先が、今後発効するFTAを活用して、グローバル拠点の再配置を検討しているかもしれない。取引先に付いていく形で立ち上げた海外工場の仕事が、ある日突然、なくなってしまうリスクもFTAによってもたらされる。
国際通商ルールが与えるインパクト
問題は、企業側も関税をはじめとする通商が経営に与えるインパクトを十分理解していないことになる。例えば、関税3%は法人税30%に相当する。
原価×関税3% ≒ 税引前利益×法人税30%
また、非関税ルールのビジネスインパクトも極めて大きい。製品やサービスを海外に展開する際、企業は各国で定められた基準や規制、知的財産権や投資ルールなどに対応しながら事業を展開していく。この各国間のルールの違いによって、企業は調達サプライヤーを分散したり、製品やサービスのプラットフォームを多様化させてきた。こうした企業側の対応コストは「関税の10〜20%」に相当すると言われる。
通商ルール活用のための6つのアプローチ
①FTAの「使い漏れ」解消による利益創出好条件の特恵関税率を適用するには、各協定で決められている「原産地規則」を満たすことを証明し、必要な書類を揃えてから製品を出荷する必要がある。このルールは煩雑かつ複雑で、ほぼ全ての企業が何かしらFTAの「使い漏れ」を起こしている。
②サプライチェーン最適化による利益創出
FTAの関税率は物品ごとに異なり、毎年変化している。この動きを知らずに新しい調達先を決めたり、新しい工場や倉庫を作ったりする訳にはいかない。
③コンプライアンス対応によるリスク回避
間違った手続きで輸入すると、追徴課税などのペナルティを課せられる。こうしたコンプライアンス対応不足があると、取引先からキックアウトされてしまうこともある。
④市場開放に伴う事業機会の探索による利益創出
これまでローカル企業でないと公共事業に入札できなかったが、FTAによって外国企業も参加できるようになる場合もある。
⑤海外ローカル企業へのM&Aによる利益創出
FTAによって、ローカル企業への出資がよりしやすくなる。
⑥貿易対抗措置によるリスク回避
アンチダンピング措置の影響を最小限にする通商リテラシーが求められる。