新規事業撤退力を高める

発刊
2025年9月10日
ページ数
232ページ
読了目安
267分
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新規事業を立ち上げる時に同時に考えておかなければならないこと
新規事業は成功させることが難しいため、うまく撤退することも重要である。新規事業の撤退力は、次の新規事業を立ち上げるためにも必要であるとし、そのプロセスを整理している一冊。

撤退の意思決定を阻む要因や、撤退を速やかに行うことによるメリットなど、新規事業がうまくいかなかった時のためのマインドセットや準備、意思決定の方法などを学ぶことができます。新規事業は、立ち上げることが注目されがちであるが、撤退することも重要であるとし、その意義を説いています。

新規事業には撤退力も必要

新規事業は、どんなに周到に準備をして頑張っても、うまくいかないことが多い。そうなると、ある時点で徹底を考える必要がある。しかも、単にやめてしまうのではなく、うまくやめることが重要である。やめ方を間違えると必要以上の損害を出したり、貴重な教訓を得られなくなったりする。

 

うまく撤退できなければ適切に着工できなくなり、新規事業を連鎖的に成功させることは望めない。撤退力と着工力には相関関係があり、うまい撤退ができない企業はうまい着工ができないと言ってもよい。

 

良い撤退と悪い撤退

撤退には、対応の巧拙によって、悪い撤退と良い撤退がある。合理的に撤退を判断できず最悪の状況まで追い込まれ「強制的に」退場させられるのか、客観的に状況を見極めて、機を逃さず「能動的に」幕を引くのか。追い込まれた末の強制的な撤退では経済面のみならず精神面でもダメージが大きく、エグジットの選択肢も限定されてしまうのに対し、能動的な撤退では傷を最小化することができ、将来につながる学びも獲得できる。

 

新規事業は難度が高く、どんなに頑張ったとしても撤退を検討せざるを得ない状況に直面することは少なくない。だからこそ必要な時に、いかにタイミングよく能動的な撤退を決断できるかが成功への鍵になる。

 

撤退の意思決定を阻む要因

様々な要因から撤退せざるを得ない状況になったとしても、以下のハードルによって、撤退の決断を難しい。

  • 注ぎ込んだリソースを惜しむ「コンコルドの誤謬」
  • 現場の気持ちを考えてしまう「同情的感情」
  • 潜在的な批判を考えて「悪者にはなりたくない」
  • 純粋に判断が難しい「グレーゾーン」
  • 悪印象、顧客、ステークホルダーへの影響を考えてしまう
  • 撤退の後工程が気になってしまう
  • やめるのはいつでもできる、というロジックに誘引されてしまう

 

そもそも論として、やめる意思決定をすることのインセンティブが乏しいことも撤退の大きなハードルである。短期的には撤退の意思決定が大きく評価されることは少なく、むしろ多くのマイナス要素が働く。撤退には、マネジメントにとってかなりの決意とエネルギーが必要で、本音であれば先延ばししたい、極めて難しいものと言える。

 

新規事業撤退のプロセス

撤退プロセスは、大きく区分すると「意思決定」「実行」「振り返り」の3つのステップ、より細かく分けると6つのフェーズで構成される。

 

【意思決定】

①事業性の初期評価

新規事業推進プロセスにおいて、事業の進捗が計画から乖離してしまった時点で最初にやるべきことは、事業性の初期評価である。撤退基準を明確に設定している場合は、それに抵触しているかどうかを精査し、そうでない場合は当初のプランとの乖離状況などを確認しながら、事業の今後の見通しや巻き返せる可能性を客観的な目線から検証していく。

 

②撤退関連の重要論点に対する初期見立て

撤退に踏み切るにあたっては事業性以外に、実際に撤退は可能なのか、どのように撤退するのか、などの重要論点が存在する。これらの論点への大まかな見解を持っていないと撤退の意思決定ができないので、マネジメントによる議論の前に初期見立てを策定しておく必要がある。

 

③意思決定

事業性の初期評価と重要論点への初期見立てがなされ、考慮に入れるべき材料は揃っているので、これを基に撤退について議論し意思決定する。撤退に舵を切る場合は、その方法についても大きな方向性を決めておく。

  1. 事業性評価の観点から撤退か継続かを判断する
  2. 事業性評価から撤退が妥当と判断した場合、撤退できるか、リスクはマネジできるかネガティブチェックを行う
  3. 事業性評価から継続となった場合、戦略的意義をチェックしておく

 

【実行】

④撤退プランの策定

実際に撤退アクションができるレベルまでプランを詳細化する。明確にしておくべき主要な要素は、完了日程、収支などの目標、具体的なアクションプラン、実行体制である。

いざ撤退を実行するとなるとやるべきことは多岐にわたり、取り掛かる順番も大切になるため、必要タスクを洗い出してスケジュールに落とし込んだ形で具体的なアクションプランを策定することが重要である。

 

⑤撤退手続きの実行

以下の注意ポイントを頭に入れながら、速やかに滞りなく実行していく。

  • マネジメント視点からのモニタリング、サポート
  • 撤退の決定に納得してもらえるような社内外へのコミュニケーション
  • 奮闘してきた社員の処遇

 

【振り返り】

⑥学びの抽出

今回の新規事業はなぜ計画通りに進まず、撤退になったのかを掘り下げて確認することを通じて、この新規事業からの学びを抽出する。ここでしっかりと教訓を抽出できれば、次の新規事業探索に活かすことができ、撤退の意義を最大化できる。

最も重要なことは撤退のプロセスの中に「学びの抽出」フェーズを必須の工程として入れ込んでおくことである。