数字の追求から信頼の構築へ
かつて、YouTubeは「どれだけバスるか」「登録者を何万人にするか」が評価軸だった。しかし、今、そんな数と量の時代は明確に終わりを迎えつつある。数字を伸ばすことを目的にした動画は、かえって本来伝えたかった価値や姿勢をぼやけさせてしまう。結果として「見られているのに信頼されない」という矛盾が起こる。これからは、視聴者という「他人」ではなく、顧客・仲間・共創者といった「関係性のある存在」とつながるために、YouTubeは使われるべきである。
YouTube1.0:TVの代替。再生数とバズがすべての視聴中心型の時代
YouTube2.0:投稿頻度、アルゴリズム攻略、SNSとの連携による最適化型の時代
YouTube3.0:誰とどんな信頼を築くかが問われる関係性・信頼構築型の時代
企業が「3.0時代」に成果を上げるためには、「試聴される」だけではなく「信頼される」動画をつくるという視点の転換が必要である。さらに重要なのが「動画=点」で終わらせず、「動画=線・面」を戦略的に組み込むこと。つまり、動画を経営の設計図の一部として捉え直す発想が必要である。
視聴者に行動を起こしてもらうことがゴール
バズる=売れるではない。「バズる」という現象は、誰がどんな目的で視ているのかが不明瞭なまま起こるノイズ的現象である。バズによって数字の見栄えは良くなっても、本来届けたかったターゲットには刺さらない。動画の目的は「視られること」ではなく「行動を起こしてもらうこと」である。
YouTubeの本質は、語り(構成・文脈設計・届け方)による信頼構築である。誰に何を届けるか。そして、視た人が「この人から買いたい」と思う設計になっているか。
- 商品・サービスを知ってもらう
- 問合せをもらう
- ファンになってもらう
- 採用につなげる
- セミナーに誘導する
YouTube戦略に必要なのは「どれだけの人に届いているか」ではなく「誰にどう届いているか」という視点である。信頼を重ね、関係性を築くこと。視聴の先にある「行動」こそが、動画の成果である。
「再生回数は少ないけど成果は出ている」という動画の共通点は「視聴者に次の一歩を促す設計」が動画の中に組み込まれていることである。「もっと知りたい方は、こちらをご覧ください」「気軽にご相談ください」といった行動の呼びかけが、自然に埋め込まれている。
または、動画の中で「なぜ自分がこの仕事をしているのか」「どんな人に届いて欲しいのか」といった想いを語ることで、視聴者の共感を生み出している。
マーケティングにおいて「量」は決して軽視できない指標である。しかし、YouTubeにおいては「関係性の質」が成果を左右する決定因子である。再生回数はあくまで入口の指標である。その先に次の3つが設計されていなければ、数字はただの見栄えに過ぎない。
- 信頼の構築
- 共感の獲得
- 行動の導線
発信力ではなく設計力
動画は、量ではなく「仕組み」が成果を生む。動画マーケティングは、発信力ではなく設計力である。仕組みとして回る状態を構築することが最重要である。
- 投稿の頻度や時間は最適か
- タイトルやサムネイルはターゲットに響くか
- 内容は一貫性を持って自社ブランドを伝えているか
- 動画から次の行動につながる導線が設計されているか
このような戦略設計と運用ルールがなければ、どれだけ投稿しても動画の量産に終わってしまう恐れがある。
動画本数は少なくても、ターゲットが明確で、構成に一貫性があり、視聴後の動線がきちんと設計されているチャンネルは、少しずつ着実に成果を生み出していく。
まず信じてもらう
視聴者が「この人に相談してみよう」と思うためには、信頼の蓄積というプロセスが不可欠である。特にYouTubeでは、人の顔と声が出るメディアだからこそ、「信じられるか」という感覚が、視聴者にダイレクトに伝わる。売ろうとする前に、まず信じてもらえるかという問いが、動画戦略の出発点になる。
多くの企業がやってしまうことは「商品やサービスの説明だけを延々と話す」こと。これだけではファンは生まれない。視聴者が知りたいのは、「どんな商品か」より「どんな人がやっているのか」である。人は情報ではなく、物語に心を動かされる。
- なぜこのビジネスを始めたのか
- 過去にどんな苦労があったのか
- どんな価値観や信念で取り組んでいるのか
こうした「背景」に共感が生まれた時、人はファンになる。
視聴者が「この人、わかってるな」と感じた瞬間、そこに信頼の芽が生まれる。共感をつくるには、相手の立場に立って考えるだけでは足りない。
- どんな言葉を使えば響くか
- どのエピソードを選べば刺さるか
- どこまで感情に踏み込むか
こうした共感設計の技術が、動画の中には必要である。YouTubeで信頼をつくる第一歩は「あなたのことを理解しています」というメッセージを届けることである。