売り場を支えるラウンダー事業
mitorizの主要事業はラウンダーだ。メーカーの営業担当の代わりに小売店を訪問し、売り場づくりのフォローやアドバイス、販促活動などを行い、自社商品の売上アップを図るというのが仕事である。
スーパーやコンビニエンスストアなどが仕入れた商品を、どの場所にどうやって陳列するかは、通常、商品を納入しているメーカーの営業担当が小売店側の本部と交渉して決める。しかし、現場が必ずその通りにやってくれるとは限らない。そのため、メーカーは絶えず店舗を巡回して、自社商品が指示通りにきちんと配置されているかを自分たちで確認し、そうなっていない場合は、その都度現場の担当者をつかまえて、並べ直しや追加注文をお願いしなければならない。
ところが、自社の社員を使ってこれをやれば、メーカーはより多くの営業スタッフが必要になり、人件費や交通費などの諸経費が膨らむ。そこで外部のラウンダーが威力を発揮する。一般的には、店舗の巡回などのラウンダー業務を外部に委託すると、2割程度のコストが削減できると言われている。
mitorizでは、他社がスタッフ1人に対する1日当たりの単価を決めて派遣するのに対し、出来高制で仕事を引き受けている。そのため、他社よりもさらに2割以上コストを安く抑えることができる。さらにmitorizは、受注した業務結果のデータを定量的に評価できるようになっており、メーカーはそのデータを受け取ることができる。このデータは、バリューチェーンの相関分析に利用できる。
ラウンダー事業のビジネスモデル
ラウンダーの仕事には、誰にでもできる簡単なものから、多少の営業スキルが必要なものまで、いくつかの段階があり、報酬も難易度に比例して高くなる。店頭で行う商品の陳列や販促物の陳列などに関しては、正社員でない女性にも無理なくできる。むしろ、現場を経験して慣れている非正規雇用の女性の方が、社員よりも手際良く作業し、できあがりの質も上だと言っていい。
前職のアサヒビール時代にラウンダー業務をお願いしていたマーケットスタッフの仕事ぶりを数値化したところ、生産性が「正社員の4倍」という結果が出たことがある。その時にラウンダーのアウトソーシングがビジネスになると確信した。
ラウンダー事業を始めるにあたっては、どうすれば非正規雇用の女性にとってより働きやすくなるかを念頭に、ビジネスモデルを考えた。その結果、時給ではなく訪問単価制を採用することに決めた。mitorizでは「店舗1軒を訪問していくら」の訪問単価制のため、時間に縛られず、自分の生活スタイルに合わせて都合よくシフトを組むことができる。
活動を数値化する
mitorizでは、入店から退店までにやるべきことを順序立てて定めたキャスト用のマニュアルを用意している。初めての人でもこれがあれば効率よく仕事ができる、実効性の高い指南書である。
前職のアサヒビール時代、スマイルサポートというラウンダービジネスに特化した子会社を立ち上げた。当時からラウンダーは非正規雇用の女性が活躍していたが、人によってどれくらい活動量が違うかを、数値にして比較することにした。店舗の訪問、バックヤードの自社商品の在庫確認、競合商品のチェック、商品の陳列量、フェイス数、商談結果というように、ラウンダーの仕事を小分けにしたリストをつくり、活動の報告をできる限り数値化した。それらを集計して1人1人の活動量を出した。この作業を1500人のスタッフ全員にやってもらった結果、トップと最下位では20倍の差があることが判明した。
ラウンダーの活動量を数値化して比較するには、基準となる働き方を明確にする必要がある。そこで、高いパフォーマンスを上げているスタッフ20人が、どんな働き方をしているのか朝から晩まで張り付いて、観察した。そこからラウンダーに必要な働き方の要素を抜き出して整理していき、売上との関連性が特に強い20項目を選び出し、これをラウンダーの基本活動とした。そして、そのノウハウやコツをまとめたフィールドハンドブックを作成して全員に配布した。
マーケットスタッフがどのような活動をどれだけやったら、それがどのように売上に影響したかを検証しながら、それも全部ロジックにしていった。そして、店頭活動と売上の相関分析もできるようになった。
当たり前を極める
mirtorizの事業を通じて学んだのは「ビジネスのヒントは身近なところにある」ということ。それに「気づくこと」「やろうと思うこと」「突き詰めて実行すること」が重要である。
ラウンダー事業では、現場データの収集や業務マニュアルの改善といった、一見平凡に思えることでも、徹底的に突き詰めて非凡なレベルで実行することを心がけた。こうした地道な積み重ねが信頼を生み出し、競争力を高める原動力になった。