見えないものを感じる
数学の魅力は「見えないものを感じる」ということ。見えないところにこそ数学が生息している。野原に咲く花にも数学の法則が潜んでいる。例えば、以下の花びらの枚数から規則性が見えてくる。
- オモダカ:3枚
- 桜:5枚
- コスモス:8枚
- シロヨメナ:13枚
- マーガレット:21枚
数だけにして、それを並べて、じっと見つめるのが規則性を見つけるコツであり、数学的な思考力を養う第一歩である。
3+5=8、5+8=13、8+13=21
どの場合も「連続する2つの数字を足したら、その後の数字になる」という規則性がある。このような数の列のことをフィボナッチ数列という。一般に「花びらの枚数や葉のつき方」は、フィボナッチ数列に現れる数であることが多い、ということがわかっている。その決定的な理由はわかっていないが、より多くの花びらを限られたスペースに並べ、太陽からの光などのエネルギーを効率よく得たり、子孫を残しやすくするためではないかと言われている。
フィボナッチ数列には「美しさ」も潜んでいる。隣り合うフィボナッチ数の比率を計算すると、次のようになる。
1÷1=1、2÷1=2、3÷2=1.5、5÷3=1.666、8÷5=1.6、13÷8=1.625・・・
このまま続けていくと、1.6180339887・・・という値に近づいていく。この値をφで表し、黄金数といい、1:1.618を黄金比という。黄金比は「調和のとれた美しい比率」だと言われていて、パルテノン神殿やピラミッドに黄金比を見ることができる。黄金比は、自然、芸術、建築など様々な所に潜んでいる。
身近なところでは、名刺やクレジットカードのタテとヨコの比は、1:1.6に近いことが多い。また、黄金比は渦巻きと深い関係がある。黄金比の長方形を次々に作っていくことで、渦巻きが浮かび上がる。自然界においては、植物の葉脈や巻貝の渦巻きなども黄金比に近いことが知られている。
数学の起源
世界最古の文明と考えられている古代メソポタミア文明を、初期の頃に担っていたのがシュメール人である。彼らは約6000年前にメソポタミア地方に移動してきたと考えられているが、実のところよくわかっていない。
古代、人々が季節を知る手掛かりとしたのは、夜空の星であり、月の満ち欠けだと言われている。約4500年前、シュメール人は月の満ち欠けをもとにした日付を使用していた。やがて、それは「六十進法」へとつながる。
現代では10を単位として数を表す「十進法」が用いられているが、60を単位として数を表す方法を「六十進法」という。六十進法とは、60をひとかたまりとした数え方のこと。シュメール人は、貝の計測器や目盛りのついた定規を使い、星の動きを計算し、天文学を発展させた。
1時間は60分。1分は60秒。こうした身近な所に、古代メソポタミア文明の名残がある。また、古代メソポタミアでは30日を1ヶ月として、30日×12で、1年を360日と定めた。同様に、円を一周すると360度というのも、古代メソポタミアで定められた。これらは60が基準になっている。現代の時間や円の角度、1年や1ヶ月の日数、12星座、干支など、身近なところに古代メソポタミアの影響がある。
世界は数でできている
古代ギリシャの数学者、ピタゴラスは「万物の根源は数である」と言った。彼は、この宇宙のすべては突き詰めると「数」に行き着くと考えた。
音楽と数学は深い関わりがある。実は「ドレミファ・・・」のルーツは、ピタゴラスに行き着く。ある日、ピタゴラスが散歩をしていて、鍛冶屋の前を通った時、職人たちがハンマーを打つ音が聞こえてきた。この時、いくつかの音が共鳴して心地いい時と、不協和音のようになる時があることに気づいた。調べてみると、ハンマーの重さの比が「2対3」という整数比の時、音が共鳴して心地いいことを発見した。
音は「振動(=ゆれ)」が空気中を伝わり、耳まで届くことで、私たちは音を聴くことができる。その時、音の波が1秒間に振動する回数を「周波数」といい、その単位を「ヘルツ」という。音の高さは振動数によって決まる。「ラ」の音は、1秒間に440回振動(440ヘルツ)している。
ピタゴラスは、周波数の比率が2対3の時、共鳴して心地よく響くことに気づいた。例えば「ド」と「ソ」は半音7個分の音程であり、周波数の比率が2対3になる。この比率の音程の積み重ねで作った音律を「ピタゴラス音律」という。これによって、「音の響き」という感覚的なものが、「数」で表現され、法則性が見出されたことになる。
ピタゴラス音律を微調整して、ドミソの和音が心地よく響くように作った音律を「純正律」という。歴史的には、中世ヨーロッパ後期あたりから純正律が広く使われるようになった。