格差が拡大する世界
2001〜2013年の間に、先進国全体の経済規模は1.7倍に増えているが、同じ期間に新興国・途上国の経済規模は4.3倍に膨らんでいる。こうした大きな流れの中で、先進国では中間層の没落という現象が顕著になっている。比較的賃金の高い製造業を中心に、雇用が新興国に奪われている。一方で、一握りの富裕層がますます豊かになるという歪んだ構造が顕著になっている。
こうした格差の拡大は、資源高とそれに伴うインフレ、そして金融資本主義によってもたらされた。最も極端なのがアメリカで、上位10%の富裕層が国民所得の48%を占める半面、人口の1/3が貧困層もしくは貧困層予備軍に転落するという格差社会になっている。アメリカの貧困層は4650万人(約15%)に及ぶ。
先進国で中間層がこぼれ落ち、その富は一部の富裕層と新興国へ流れ出ている。こうして新興国では新たに富裕層が誕生する事になったが、新興国内でも格差が広がっている。世界全体で許容される中間層の数には限りがある。つまり、パイの大きさは決まっていて、それを先進国と新興国が奪い合っているのが21世紀の実情である。
資本主義の終焉
これからの世界では、IT化がさらに進んでいく。IT化が広がると、雇用はそれだけ必要なくなる。多くの分野はネットに侵食され、小売・流通などの従業員は縮小していく。また、製造現場のロボット化によっても良質な雇用が奪われていく。こうした状況は、既に新興国にも波及している。IT化とロボット化は人手を要らなくしていくが、これは格差の拡大をもたらす事になる。仕事を失った中間層は、貧困層へ転落するリスクをはらんでいる。先進国でのこうした動きは、2020年くらいまで続く可能性がある。
資本主義には安い人件費を提供してくれる人たちを搾取して成長してきた側面がある。資本主義社会は、未開の地を開拓し、その地の成長率を上げる事によって、全体として成長の底上げを図ってきた。この開発の矛先がいち早く及んだ中国では、沿海部の賃金が高騰してきた。そして、今資本主義の矛先は既に東南アジア、南アジアに及び、インドネシア、インドなどにおいても賃金の高騰が起きている。このように先進国との賃金格差が縮小してくるという事は、成長力が乏しくなる事を意味する。そうなると、高成長を期待できるのはアフリカしかなくなるが、最後の途上国であるアフリカも、今の新興国並みの成長は期待できない。こうして「未開の地」がなくなると、資本主義は成長の限界に突き当たる。その時に世界全体が今の先進国のように低成長に陥る。
エネルギー価格の下落が国民を豊かにする
こうした大きな流れに対して、今アメリカで起こっているエネルギー革命が多くの問題を解決していく事になる。エネルギー価格が下がってくれば、日本を含めた先進国での格差拡大はなくなるし、中間層の喪失も止まっていく。
先進国では、エネルギー価格が主因になって物価が変動している。食品や工業製品をつくる際には、多くのエネルギーが必要である。そのエネルギー価格の動向を決めるのが需要と供給の関係だが、近年のアメリカでは、シェール革命が猛烈な勢いで進行して、エネルギーの供給量が飛躍的に増えている。アメリカのシンクタンクでは、2020年までに北中米大陸のシェールガス、シェールオイルの生産量が中東全域に匹敵するとの試算もある。
こうした供給量の増加に対し、世界全体の石油需要のピークは近い。先進国の石油需要は2000年代後半から徐々に減っており、新興国でも、2つのイノベーションが石油の需要を抑制していく。
・シェール革命による世界の天然ガスの埋蔵量の急増
・自動車の省エネ技術の進歩
エネルギー価格の下落は物価を下げ、国民の生活コストは下がり、人々の暮らしはよくなっていく。ガソリン代も灯油の値段も下がり、食料価格も下がり、その他のモノの価格が下落すれば、先進国の人々の購買力は高まり、豊かになる。
歴史を振り返れば、デフレになるか、インフレになるかはエネルギー価格に大きく左右される。アメリカのシェール革命により、今後はエネルギーコストが低下する。毎月支払う電気代は確実に下がり、自動車は2025年頃には、ハイブリッド車に代わる究極のエコカーがそれに置き換わりはじめている。
エネルギーコストの低下とともに製造業も国内に帰ってきて、人々の職場も増えている。デフレが進むので、賃金は上がらないが、物価がどんどん安くなるので暮らしは今よりずっと楽になる。所得格差も縮小していく。