ネコは(ほぼ)液体である

発刊
2025年7月4日
ページ数
224ページ
読了目安
217分
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推薦者

ネコに関する研究論文のダイジェスト版
ネコに関する様々な研究論文をわかりやすく紹介している一冊。普段あまり知られていない、ネコに関する様々な研究結果を知ることができ、特にネコを飼っている人にとっては役立つ知識も含まれています。

ネコの性格は何に由来するのか、ネコ語は理解できるのか、ネコの気持ちはどのようにすればわかるのかなど、ネコに関して詳しくなります。

ネコは飼い主の声や表情を区別できる

ネコは飼い主の声を聞き分けられる上に、「自分の名前」と「他の名詞」や「同居のネコの名前」を区別する能力があることが科学的に証明されている。さらにネコは、飼い主の表情や行動も読み取ることができる。

 

調査の結果、ネコは飼い主が怒った表情をしている時よりも幸せな表情をしている時に、より飼い主に近づくということがわかった。また幸せな表情の時にはポジティブな行動も多く見られた。ところが、見知らぬ人の怒った表情と幸せな表情には差がなかった。これらの結果から、ネコは飼い主に限られるが、人の表情によって行動を変えることがわかった。つまり、普段の生活の中で飼い主の表情の結果によって生じることを学習しているのかもしれない。

 

曖昧な状況下で他人の行動を見て、自分の行動を変えるのは「社会的参照」と呼ばれる。人や犬には「社会的参照」があり、相手の行動によって自身の行動を変化させることがある。調査の結果、ネコも同じように飼い主の感情に影響され、自身の行動を変えている可能性があると考えられている。

 

ネコはうま味を感知する

イエネコの祖先種は、約13万1000年前に中近東に生息していたリビアヤマネコである。この地域は、人が農耕を開発した場所である。穀物の貯蔵庫にネズミが出没するため、ネズミ捕りのためにネコがやってきたのではないかと考えられている。また9500年前の地中海にあるキプロス島で、リビアヤマネコと見られる骨が人と一緒に埋葬されていることがわかっている。これが、ネコと人が共に暮らし始めた最古の記録とされている。

 

ネコのご飯と言えば、マグロやカツオなど魚を使ったフードが多く見られる。しかし、ネコの祖先種であるリビアヤマネコは砂漠に暮らしている。海のない場所で生まれたネコたちは、なぜ魚を好むようになったのか。

ネコの味覚は人と異なり、甘みを感じないと言われている。これは、ネコが元来肉食であることが影響しており、狩をする生活では、砂糖に出合うことがない。そのため、ネコには糖を感知する甘み受容体がない。また、植物のような苦くて有毒なものを食べることも少ないため、苦味を感知する苦み受容体が少ない一方、塩味や酸味はわかると言われている。

 

では、ネコはうま味を感じることができるのか。結果は、ネコの舌にはうまみを感知するうまみ受容体があることがわかった。ネコは水だけよりもアミノ酸を入れた水をより選択する。ネコが選んだアミノ酸のヒスチジンと核酸のイノシン酸は、マグロに多く含まれる。つまり、ネコはマグロのうまみ成分をより感知しやすい。なぜネコがうまみを感知できるようになったのかは不明だが、遺伝子に刻まれるほどネコはマグロが好きである。

 

ネコの性格も生まれと育ちに影響を受ける

人に全く近づかないネコもいれば、犬のように飼い主にべったりくっついて行動するネコもいる。なぜ、ネコによって行動に違いがあるのか。

人において性格を決めるのは生まれつきの素質と環境の両方の影響があると考えられている。ネコは産まれてから早い期間に人と触れ合うことで、人懐っこい行動をするネコになると言われている。この期間を「社会化期」と呼ぶ。この社会化期に人と触れ合わなかったネコは、人に友好的になることが難しいと言われており、環境の影響が大きいと考えられてきた。しかし、ネコが生まれつきの素質にどの程度影響を受けているのかはわかっていなかった。

 

調査の結果、父猫が友好的な性格でかつ社会化期に人と触れ合ったネコは、そうでないネコに比べて、人に触れたりこすったりすることが多く、人の側にいる時間が長いということがわかった。また社会化期に人との触れ合いがあった場合、父猫が友好的な性格なネコは父猫が非友好的な性格のネコよりも、人に対して有効的だった。つまり、生まれつきの素質も行動や性格に影響を与えている可能性があることがわかった。

 

ネコは液体である

パリ・ディドロ大学のマーク・アントワン・ファルダン氏は、2017年にイグ・ノーベル賞の物理学賞を受賞した。彼は、液体のように振る舞うネコたちは本当に液体なのかを、物質の流動と変形について研究する学問・流動学を用いて検証し、「ネコの流動学について」という論文を発表した。

 

ネコは箱やガラス瓶、カゴ、ワイングラスなど様々な容器に入り、自在に形を変えることができる。液体の定義は、体積は一定であるものの形は容器に合わせて変化するものである。これをネコに置き換えてみると、ネコは一定の体積をもちながら、形は容器に合わせて変化することができる。つまり、液体の定義に当てはまるとファルダン氏は主張する。さらにネコの水面の不親和性や壁への粘着性など、ネコには液体の特性があると説明されている。このようなネコの特性は、流動学研究におけるモデルとなる可能性があるとのことである。