孫子に経営を読む

発刊
2014年7月17日
ページ数
237ページ
読了目安
255分
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孫子を経営に活かす
経営学者である著者が、『孫子』の中から大切な30の言葉を解説しながら、経営に活かせる孫子の考え方を紹介しています。

兵は国の大事なり

「兵は国の大事なり」での兵とは「国防」と考えると一番ぴったりくる。戦争と解釈するよりも、そのための事前準備や戦争を避ける外交も含めて、国防という広い解釈がふさわしい。孫子がこの一文で強調したかったのは、国防という国の大事への2つの基本スタンスだ。

①大事であるからこそ、少数のポイントに絞って合理的に考えるべき
②大事だからこそ、君主の責任である

そして、孫子は5つの鍵になる要因があると指摘する。これをさらに比較するために7つの計について考える事が必要だという。また、そうした情報の重要性を強調するのも孫子の特徴である。

 

一に道、二に天、三に地、四に将、五に法

君子が兵について考える際に注目すべき鍵要因は5つある。

道:民をして意を上と同じくさせる者。理念。
天:気候、天候、時間
地:地形
将:現場の戦闘の指揮官
法:組織の構造と運用体制、マネジメント

経営の言葉に言い換えて表現すれば、理念、戦略、現場の指揮官、経営システムの4つが内部変数で、外的要因として環境がある。孫子は5つのポイントをあげるだけでなく、その中の優先順位を明確に考えている。5つの要因の最初に道をあげている事は、十分に注目されていい。しかも、孫子は理念のもたらしてくれるものを、人心の統一、上下の意思の統一だと明確に意識している。孫子は、それが兵、国防にとって一番大切だと言っているのである。

 

算多きは勝ち、算少なきは勝たず

「算」とは「数えること」と「はかりごと」の2つの意味がある。孫子は国防の5つの基本要因について、敵軍と自軍の比較をきちんとして、その上で対策としてのはかりごとをめぐらす事が多ければ、戦に勝つ可能性は高いと言っている。孫子は「算を得ること多し」というのは、7つの計についての比較考量によると考えていた。

①主の道、②将の能力、③天地の得失、④法令の実行、⑤兵たちの強さ、⑥士卒の練度、⑦賞罰の明確さである。

孫子は「未だ戦わずしての廟算」を極めて重んじる。つまり、事前の計算やはかりごとことが大事であり、廟算、つまり先祖(歴史)に恥じない算をする事が大切だという。

 

勝ちを知るに五あり

「勝ちを知るに五あり」という文章の後に、「彼を知りて己を知れば、百戦して殆うからず」と続く。

孫子は「どんな状態になっている者が勝てるか」を5つのタイプに分けて述べた。

①戦うべき状況か、判断できる者
②現場の作戦行動を兵力の大小に応じて適切に工夫できる者
③組織の上下で同じ思いと欲を共有している者
④自ら深く考えて準備をし、相手が準備のないまま行動するのを待ち構える者
⑤現場の指揮官たる将の能力が高く、君は将の手綱をいちいちコントロールしない者

こうした5つの状態が揃っていれば勝てるというのは、経営の本質をついた「あるべき姿」である。

 

君の軍を患うる所以の者には三あり

軍を患うるとは、軍を患わすと理解していい。その患うる3つは次の通りである。

①軍を拘束する
②軍の士卒を惑わす
③軍の士卒が疑うようなことを君がする

孫子は、この3つを述べた後「勝ちを知るに五あり」という言葉を書いた。現場の行動に細かく口を出すのではなく、経営理念を定め、浸透させ、戦略を決断し、現場の指揮官を選び、そして経営システムを準備する。その上で、あとは現場に任すこと、それが経営なのである。

 

戦いは、正を以て合い、奇を以て勝つ

戦略の基本は正、そこへ奇を加えると勝てる。正とは、正統的で定石通りの戦略であり、奇とは意外性をもった戦略である。

孫子は、奇と正の2つの基本形の組み合わせは多様で、その多様さの中からの選択こそが、戦略の選択の肝だという。孫子は奇正の順序が大切だとも考えている。まず正の戦略をきちんと持ち、その路線で動き出して、後に奇を加えるのが勝負の肝というのである。
なぜ、「まず正」なのか。第一に自分の活動基盤を堅牢にするものとして、正が必要である。それがあるから、いろいろな動き(奇)を「その後に」付け加えられる。第二に敵の意表をつく奇が効果を持つためには、相手の予想をまず正で誘導する必要がある。その予想を相手が持っているからこそ、はじめて予想の裏をかく奇手が生きてくる。つまり、相手の予想の裏をかくような行動をとるためには、まず相手に「こんな行動をとる可能性が高い」という予想を持たなければならない。そのために、正が必要なのである。

 

勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求む

勝てる態勢や状況をまず作ってから、実際の戦闘を始めるべし、という事である。敗軍は勝利への態勢作りが不十分なまま戦闘を開始して、その戦いの中で勝機をつかもうとする。だがそのチャンスが訪れる事は稀で、結局は敗れてしまうという。

したがって、戦略の本質は「実際の戦いの前に」勝てる態勢と状況を作っておくこと、そしてそうした事前準備をした上でタイミングを見て実際の戦いを始めること、この2点にあるという事になる。

 

兵の形は実を避けて虚を撃つ

孫子の戦略論のユニークさは、「正」こそ最も大切と言いながらも、勝つための決め手となる「奇」について、様々な観点から考察している事である。そのポイントは3つ。①虚実、②主導権、③詭道である。

「虚を撃つ」とは、相手が手薄なところ、意図していないところを攻めるという意味である。虚を撃たれた相手の困惑や驚きが自分に有利に働く事を狙う、という思考に、虚実の戦略論の肝がある。

 

人に致して人に致されず

「人に致される」とは、他人の思うようにされてしまう事である。これは戦の場での主導権をとる、という事である。主導権を握るための戦略として、およそ孫子は2パターンを考えている。

①チャンスが到来した時に主導権を握れるように、自分の準備を整えておく
②変幻自在に敵の裏をかき、スピーディーかつ徹底して自分の戦術を変化させる事で、相手を翻弄し、疲れさせ、そこから相手の虚を多くする

 

兵とは詭道なり

強くとも敵には弱く見せる、遠方にあっても近くにいるように見せる、低姿勢に出て敵を驕らせる、相手の無防備を攻めたり予想していないところに出るという事で、すべての相手を欺き、相手の裏をかくような行動である。