「直感買い」のつくり方 記憶と連想の力で「つい選んでしまう」を促す

発刊
2025年6月5日
ページ数
320ページ
読了目安
535分
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脳はどのようにブランドを選ぶのか
人の購買行動はほとんど無意識によって行われる。この無意識に商品やサービスを選ぶという行動科学の知見をもとに、いかに消費者に選ばれるブランドをつくればいいのかが解説されています。

これまでのマーケティングの常識であった「メッセージを1つに絞る」「感情に訴えかける」「差別化せよ」といった考え方を覆す、最新のマーケティングの考え方が紹介されています。

私たちの選択はすべて記憶に基づいている

判断のほとんどは、無意識の内に直感的に行われている。そこに思考などない。ただ体が勝手に動いて手を伸ばす。それを買った理由は、買うと決めた後で自分の選択を正当化しているだけだ。消費者調査でブランドを選ぶ理由として挙げられた回答が、本当にその選択の理由になっていたことなど滅多にない。

 

競争優位論の考え方では、人は価格や他のモノやサービスとの違いに基づいて選択をしているとされる。だが、そうではない。現実の世界から人が受ける影響はあるものの、本当に重要なのは頭の中にある現実だけだ。人の認識と行動を変えるのは感情ではなく「記憶」だ。

成功の秘訣は、買い手になりうる人たちの無意識の心の中でブランドの存在感を高めることである。自社のブランドが無意識の心の中にどう受け入れられているかに注意を払うこと。変化が最初に起きる場所が直感なのだ。

 

人が最も欲しがっているのは「承認」である。「あなたは正しい」と言って欲しいのだ。私たちが喜んで信じたがるのは、どんな情報であれ、自分の世界観を肯定してくれるものであり、自分が正しいということを他人に対してあるいは自分自身に対して証明したい時に役立つものだ。だからこそ、相手の記憶の中にしっかりと下ろされている錨を活用することが成功の唯一の方法となる。これは感情に訴えかける広告をつくればいい訳ではない。

私たちの選択はすべて、脳の神経回路に存在する連想と記憶に基づいている。この神経回路が、互いにつながった神経活動のベクトルを大量に形成する。このベクトルが互いに作用し合い、それが人の直感的な好みや行動につながる。そして直感を動かすのは、人間の脳が得意としている「類推」だ。

 

ブランドから連想されるものに選好は影響される

大抵の人が、ブランドというのはロゴや商品、サービスを指すと考えている。だがそれだけではない。ブランドとは、そのブランドとつながりのあるものすべてを指す。単に商品やロゴだけではなく、そのブランドに関して脳がこれまでにつくったつながりのすべて、つまり「そこから連想されるもの」だ。

 

人の脳は、ひっきりなしに選択肢を突きつけられているため、ブランドの「セイリエンス(顕現性)=あらゆる選択肢の中で際立つ能力」は、ブランドが注目されるかどうか、最終的に選ばれるかどうかの決め手になる。セイリエンスは「連想」によってつくられる。連想は、受け手が大切に想っていることや彼らの人生において意味のあること、あるいは過去に想っていたことや意味のあったことに関係しているものでなければならない。

さらにその連想は大量にあるのが望ましい。ブランドが大量のプラスの連想を伴っていれば、脳の中での物理的な存在感が高まり、「直感的ブランド選好(自動的な繰り返される購買行動)」へとつながることになる。

 

プラスの連想を積み重ねる

ブランドを市場で成功させる唯一の方法は、まず人々の心の中でそのブランドを育て、小さな種から、ブランド・コネクトームの枝を広げ、大木へと成長させることである。コネクトームとは、人の脳の中にあるすべての神経回路とのつながりを表した地図のことである。人のコネクトームの中で、どのブランドも、考えも概念も、それぞれ独自の連想と記憶のネットワークを持つ。この累積した連想と記憶は、時間の経過とともにそのブランドと切っても切れない関係になり、物理的な神経回路網を形成する。

物理的な神経回路網に累積した連想と記憶の中には、子供時代にまでさかのぼるものもある。ブランドについて何かプラスの連想をすればするほど、多くの神経回路が形成され、そのブランドのコネクトームを大きくしていく。

 

ブランドは、私たちの神経回路に既に書き込まれている暗黙の連想を利用している。これが最も抵抗の少ないルートである。心の中にあるものに便乗するのだ。大事なことは、私たちが感じるブランドや商品との感情的なつながりは、このようなプラスの連想すべての結果であって、原因ではないということだ。感情に訴えかけるという考え方は、マーケティングに関する最も根強い誤解の1つである。

 

ブランドは、受け手が大事にしている考えと結びつけることができて初めて、受け手の直感の心に入り込める。市場での成長のためには、消費者の無意識の中で、プラスの連想の存在感を高めなければならない。そのためには、グロース・トリガー(成長誘因)が必要だ。

グロース・トリガーは、様々なプラスの連想が詰まった簡潔な記号やイメージである。五感のいずれかを通してプラスの連想と様々な意味合いを伝える近道である。グロース・トリガーを通じてプラスの連想を加えていくことで、どんなブランドでも「迷わず選ぶ定番の選択肢」になることができる。