AIエージェント革命 「知能」を雇う時代へ

発刊
2025年6月14日
ページ数
224ページ
読了目安
235分
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AIエージェントの基本的な教科書
人間が指示しなくても、AIが自律的に業務を行う「AIエージェント」の事例や技術基盤、導入と運用の方法などがまとめられた一冊。

今後、ビジネスに大きなインパクトを与えるとされる「AIエージェント」の概要を掴み、今後どのように自社や自らの仕事に取り入れていけばいいのかがわかります。AIエージェントの基本的なことを知るのに適しています。

AIエージェント革命

AIの進化は加速し始めた。ChatGPTによる「対話・生成」、Soraによる「現実世界の理解・模倣」、Operatorによる「デジタル世界の操作・実行」。この驚異的なスピードで進む進化の先に明確に見えてきたものが「AIエージェント」である。

AIエージェントとは、単に指示されたタスクを実行するだけのプログラムではない。与えられた目標に基づき、自ら計画を立案し、必要な情報を収集・分析し、外部ツールや他のシステムと連携しながら、自律的にタスクを遂行していく「主体」である。それは、特定の業務や役割を担う「仮想の従業員=知能」を新たに雇い入れるようなものだ。

 

生成AIの多くはまだ、人間が詳細な指示を与え、AIが応答するという、人間主導のインタラクションが中心である。AIエージェントは、この関係性を根底から覆す。人間が設定するのは、最終的な「目標」である。その目標達成に向けた具体的なステップの計画、実行、軌道修正は、AIエージェント自身が自律的に行う。これは「知的な労働」そのものの在り方を変える可能性がある。

 

AIエージェントの活用事例

・PC操作の自動化

アンソロピックの「Computer Use」やオープンAIの「Operator」を使えば、PC上で完結する操作なら幅広く適用できる。例えば、ウェブで集めた情報をExcelに転記する作業や、よく使う店の予約、いつも買っている商品のECサイトでの購入などだ。

今後より汎用性が拡大し、利便性が向上していくにつれ、ルーティンワークに対してAIエージェントが代替してくれる未来はすぐそこまで来ている。その際に必要な人間の役割は、作業のレベルを定義し、どのレベルまでAIに実行してもらうのか、AIエージェントの管理と責任に集約される。

 

・調査の自動化

グーグルの「Deep Research」は、調査目的や調査内容をチャット形式のインターフェースに入力するだけで、調査計画の策定、情報収集、データの整理・分析、報告書の作成までのプロセスを自動的に実行し、わずか数分で結果を提供する。現在は、オープンAIの「ChatGPT」、パープレキシティAIの「Perplexity」も同様の機能が提供されている。

誰もがAIエージェントを通して瞬時に公開情報へアクセスできるとなると、公開情報自体の価値は低下し、企業や個人が保有する非公開情報や暗黙知の重要性が増すと予想される。特にフィールドリサーチや対人ネットワークを通じた情報収集、現場での実体験に基づく判断など、AIでは完全には再現できない「身体性を伴う」調査がますます重要になる。

 

・申請の自動化

ユーザーの不足している専門知識をAIが補完する申請代行サービスの事例として、不当な駐車違反切符の取り消しを支援する世界初のAI弁護士ボット「DoNotPay」がある。ユーザーがチャット形式で状況を入力すると、違反取り消しのための異議申立書を自動生成してくれる。DoNotPayは、駐車違反のみならず、移民申請などより広範な法務トピックに対応する。

申請の自動化はまだ黎明期にあるが、今後数年の間に技術的および制度的な整備が進み、国内外で多様な消費者向け申請自動化サービスが普及することが見込まれる。

 

・データ分析の自動化

グーグルのデータ分析のAIエージェント「Data Science Agent」は、予測モデルの構築および最適化、トレンドの可視化、不足データの補完、最適な統計手法の選択など、粒度も難易度も様々なケースに対応できる。

 

・顧客対応の自動化

ウォルマートは、約10万社のサプライヤーに対する商品の価格/仕入交渉をパクタムAIのサービスを利用して、自動化する検証を行った。その結果、全サプライヤーの64%と交渉が成立し、投資対効果の目標値を20%大きく上回る形になった。

今後、顧客対応の自動化は、カスタマーサポートや調達の領域だけでなく、物流・販売などのサプライチェーンにも展開されていくことが予想される。

 

・研究活動の支援/実行

研究活動そのものを支援/実行するAIエージェントには、サカナAIの「The AI Scientist」がある。大規模言語モデルを利用して、研究開発プロセスそのものを自動化する。「テンプレート」と呼ばれるトピックを研究者が与える以外は、人間の介入なしでアイデア生成・実験プランの作成・実験反復・論文執筆・論文レビューのプロセスをすべて行うように設計してある。

The AI Scientistでは論文作成の作業を数時間で完結し、執筆にかかる費用は最も安い生成AIモデルを利用すると約15ドル、GPT-4oを利用しても3000ドル程度で1本の論文ができる。人間には不可能なスピードで新しい研究が切り拓かれる社会的インパクトは計り知れない。