誰も知らない生命 アセンブリ理論が明かす生命とその起源

発刊
2025年5月14日
ページ数
298ページ
読了目安
493分
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生命とは何か
現在の物理学では解明できていない生命の謎について、「アセンブリ理論」という新しい理論をもって、解明しようとする一冊。従来の物事の見方では、生命とな何かについて、定義できないとし、新たな解釈をもって生命を定義し、それを探求する仮説が述べられています。

生命というものを説明できる理論を、生命を創り出すことで証明しようとする研究など、生命の謎に迫る理論と研究のことを知ることができます。

現在の物理学では生命を説明できない

現代科学は、生命が物質の性質ではないことを教えてくれている。そして、分子や分子の集合体が突然生命を宿す、そんな魔法の遷移点など存在しないということを、物理学者や化学者は感じ取っている。

物理学では、新たな形態が次の新たな形態を構築するという作用が際限なく続くことを予想できなければならない。物理学者の現在の宇宙モデルでは、あらゆる出来事が時計仕掛けのメカニズムに従って進行する。そしてあらゆる創造物の起源は、ランダムなゆらぎ、またはこの宇宙の初期状態に遡ることができる。しかし、物体が、ゆらぎによってそれ自体でひとりでに物質的に出現することはあり得ない。

 

生命を説明するのに必要な新しい物理学の出発点は、何が存在していてそれがなぜなのかを理解することである。即ち、物理的物体として出現するものが、どのようにして何のために選択されるのか、そこからスタートする。存在しうるものの中で、物理的物体になるという特権的地位を獲得するものがどれであるかは、それ以前に何があったかに依存する。そのような物体を組み立てるには、依存関係の連鎖が必要である。だからこそ、そのような物体はあまりにも存在し難く思え、現在の物理理論の枠組みでは説明できない。

そのような物体を説明するには、組み合わせによって構築可能なものからなる抽象的な空間を、物理的空間として概念化しなおさなければならない。その空間の物理を理解することが、生命の謎を解く鍵となる。

 

生命とは何かを定義する

生命と非生命を統一する数学的形式を打ち立てることを目指す「アセンブリ理論」の鍵となる仮説は、次のようなものである。

複雑な物体が観察されるということは、その形成の各ステップに関する情報が、別の物体の中に存在していなければならない。即ち、その物体を作るための、物理的に具体的な形を取った記憶、一連の制約が存在していなければならない。しかもその記憶は、進化または学習を介してしか生じ得ない。

 

アセンブリ理論で定義する物体は、基本構成部品から、この宇宙の物理と矛盾しない操作によって組み立てることのできる、すべてのものである。アセンブリ理論では、従来の物理学で創発的とみなされるあらゆるものが、根源的なものとして定義される。

あるものを作ることがこの宇宙にとってどれだけ難しいかを「アセンブリ指数」という概念によって定式化する。アセンブリ指数は、その物体を生成するのに必要な、物理的に取りうるステップの最小回数と定義される。また、基本構成部品から出発して、既に作られているものを組み合わせるという再帰的操作のみを用いていくことで、ある物体を構築することのできる経路群を、その物体の「アセンブリ空間」と定義する。アセンブリ空間は物理法則によって絞り込まれる。つまり、アセンブリ経路に含まれうるステップは、物理的に可能なものでなければならない。

 

アセンブリ空間には、過去の記憶の概念が暗に含まれている。ある物体を使って何か新しいものを作ろうにも、その物体自体が存在するまでそれは不可能だ。このように、過去の歴史が現在において物理的に体現されているという考え方は、現在の物理理論に含まれていない。アセンブリ理論では、それぞれの物体を、その歴史が再帰的に積層したものとして記述する。

アセンブリ理論では、コピー数を用いることで、進化した複雑さと、ランダムさとを区別できると仮定する。進化は、この宇宙が過去に組み立てたものを土台にして進行する。非常に複雑な物体を始め、進化によって見出される物体は、それ以前に見出された複数の部品を再利用することになる。

 

アセンブリ理論における生命はこの宇宙で唯一、高アセンブリな物質配置を生成することのできるメカニズムである。そこで、アセンブリ指数とコピー数に、ある物体が、積層した多数の物体による因果連鎖によって生成したもの、即ち生命であるに違いないと判断される閾値を設定する必要がある。こうすれば、低アセンブリの化学物質から、私たちとは異なるルートを辿ってきた因果連鎖として、異世界生命を厳密に定義できる。

 

物体は時間的大きさを持つ

私たちは未だコンピュテーション(論理と計算の統一)と、物理学におけるそれ以外の概念とを統一できていない。アセンブリ理論は、物質(波動と粒子の統一)とコンピュテーションの統一となりうる。標準的な物理学では、時間を、単に物体が運動するための背景として扱う。だが、アセンブリ物理学では、物体は時間的な大きさを持つ。すべての物体は、この宇宙がそれを組み立てるための再帰的経路の集合体として、時間的に存在する。

 

生命とは、即ち物質が時間をかけて自身を構築するプロセスである。それを説明できる理論の導出を目指すことによって、物体の存在と時間との関係性に関する、新しい根源的な理解へと達する。アセンブリ理論によると、複雑な物体が複雑であるのは、それが空間だけでなく時間に関しても物理的な広がりを持っているからである。別の言い方をすると、物体とはアルゴリズムに他ならないのだ。