あなたがブラックホールについて知っていることはほぼすべて間違っている

発刊
2025年5月26日
ページ数
392ページ
読了目安
470分
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推薦者

ブラックホールについて現在わかっていること
ブラックホールを研究する天体物理学者であり、サイエンスコミュニケーターとしてYouTubeで人気の著者が、ブラックホールについて現在わかっていることを、ユーモアに溢れ、難解にならずに解説している一冊。

ブラックホールはどのように生まれるのか、ブラックホールの中に入るとどうなるのか、ブラックホールに終わりはあるのかなど、最新の研究をもとに、現在わかっているブラックホールのことを知ることができます。天文学や物理の知識がなくても、わかりやすい文体で解説されており、簡単に読み進めるだけで、宇宙の謎の全体像を理解できます。

ブラックホールは超高密度な物質の山

数学的に説明すると、ブラックホールは無限に密度が大きく、無限に小さい1点だ。それ以上は不可能なほどの高密度で物質が詰め込まれているのだ。地面の穴というより物質の山だ。場合によっては、太陽質量の1兆倍を超える物質が1個のブラックホールに押し込められていてもおかしくない。

 

質量を持った宇宙の天体にはすべて脱出速度がある。脱出速度とは、天体の重力に打ち勝って、その天体から離れるために必要な速度のことだ。ブラックホールの脱出速度を超えられるものは宇宙には存在せず、光でさえも抜け出せない。「事象の地平面」の元々の定義は「観測可能なものと観測不能なものの境界」だ。ブラックホールの事象の地平面を越えると、もはや私たちは何の情報も得ることができない。そこから先では脱出速度が光速を上回る。

 

恒星が死んでブラックホールができる

恒星の質量は大きければ大きいほど明るく、温度が高い。恒星は内側に潰そうとする重力と、核融合のエネルギーで外向きに押す力が常に釣り合っている。質量が最大級の恒星の場合は内側に収縮させようとする重力も最も大きく働き、それが恒星の内部を熱して小型の恒星よりはるかに高い温度にしている。恒星は常に多量の燃料を燃やしていないと、自らの重力で内側に潰れてしまう。そのため、質量の大きい恒星は太陽よりずっと多量の水素でできていても、その水素を核融合させるペースも速いせいで寿命は短い。大型星になればなるほど生き急いで早く死ぬ。

 

天文学者は1929年に、太陽を含むすべての恒星は核融合で水素をヘリウムに変えてエネルギーを得ているのを明らかにした。恒星が重力で崩壊すると、中心核に一番近い水素が高温になって再び核融合でヘリウムをつくるようになり、ヘリウムの中心核とすぐ外側の水素の大気を加熱し始める。中心核がさらに収縮して一段と高温になると、恒星はバランスをとるべく外側の水素の大気を傍聴させるしかなく、大気は非常に拡散した状態になる。こうして恒星は巨星になり、質量が極めて大きい場合には超巨星となる。

中心核を取り巻く層の中で核融合が続いていくと、中心核が十分に高温になり、ヘリウム同士が融合して炭素をつくり始める。やがて中心核の周りの水素がなくなり、恒星が再び収縮していって十分な高温に達すると、別の水素の層で核融合がスタートする。このプロセスが繰り返され、避けようのない重力崩壊を食い止めようとする内に恒星の温度は上昇していき、それが核融合の引き金となって重い元素の層が次々につくられていく。ついにはケイ素原子が融合して鉄が生まれる。鉄同士は融合してさらに重い元素をつくることもできるが、そのためには得られる以上のエネルギーを要し、燃料にならない。こうなると恒星は重力の内向きの力に抗う核融合のプロセスを始動できない。

 

恒星の外層部にある軽い元素は内側に向かって落下していき、束の間恒星の温度を急激に上昇させて光を爆発的に放出する。その後、軽い元素は中心核の重い元素に当たって跳ね返り、外に向かって宇宙空間へと放出される。この収縮と跳ね返りを超新星と呼ぶ。恒星の外層大気がすべて跳ね返って飛び去り、重力に抗うものが何も残されなくなると、ブラックホールができる。

 

基本的に重力は物質を1つにまとめようとする。重力に抵抗して恒星の収縮を止められるような、既知のプロセスや物質の形態は存在しない。私たちの知る限り恒星は収縮を続けて、どんどん小さなサイズになり、最終的には無限に小さく、定義不能な半径=0の点、すなわち特異点にまで縮んで密度は無限大となる。

 

ブラックホールにも最期が訪れるのか

この問いに向き合ったのがスティーヴン・ホーキングだった。ブラックホールは物理法則をいくつも破っているように思える。中でも極めて基本的なのが、エントロピーは常に増大するという熱力学第二法則だ。

物質がブラックホール本体に集積されると、その物質は事象の地平面の向こう側に整然と永久に閉じ込められる。このプロセスで宇宙からはわずかな乱雑さが取り除かれてエントロピーが減少するので、熱力学第二法則に反しているように思える。この問題に対して、ブラックホールが成長すると、事象の地平面の表面積も増加することがわかった。

 

ホーキングは、事象の地平面の表面がエントロピーを持つなら光を放射しているはずだと考えた。そして、ブラックホールによって量子エネルギーの振動が妨げられると光が放射されるという結論に達した。これは「ホーキング放射」として知られるようになった。ホーキング放射を生み出すためにブラックホールがエネルギーを失うと質量も失うことになる。ブラックホールはゆっくりと「蒸発」していくのである。但し、ホーキング放射はまだ見つかっておらず、仮説の域を出ておらず、本物のデータによる十分な裏付けはない。

 

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