ツッコミは信頼関係を築くコミュニケーションの基本
ツッコミとは、おかしなことを言っている・やっている「ボケ」という現象を正すのが基本的な役割である。そして「ボケの面白さを汲み取り、観ている人に伝えること」である。「この人が伝えたいおもしろいは、こういうことだろう」と理解し、それを野暮にならない範囲で噛み砕いてみんなに知らせることで笑いを増やす。
これは「相手が言いたかったこと、やろうとしたことの真意をうまく拾って伝える手助けをすることで、その人をより引き立てる」と言い換えられる。これはお笑いに限らず、コミュニケーションの基本である。基本を押さえて積み重ねていくと、相手から信頼を得られる。コミュニケーションにおいて最も重要なのは、相手と信頼関係を築くことである。
言い換える
言い方をひねるのはツッコミのお作法の1つ。日常会話としては違和感のある言葉遣いや言葉選びをしたり、普段とは違う口調で言ってみたりすることで、意図を伝えつつ笑いにつなげられるチャンスが増える。
・「あら、素敵なお召し物で」(上品変換ツッコミ)
面と向かって褒めるというのは恥ずかしいので、あえて上品な言い回しをして照れを隠す。褒める気持ちが伝わった上に、褒めた方も褒められた方も照れ臭くない。
・「なんてキュートなんだ」(英語変換ツッコミ)
英語に置き換えるのも普通の表現から少し飛ばすことができる。「ダーティーなやり方だな」「親戚のユーモアか」「ずいぶんセピア色で」など、英語にすることで言葉が丸みを帯びる。
・「牛歩で!?」「書籍に!?」(熟語変換ツッコミ)
堅い印象の言葉にすると、言葉が力強くなり、心地よい違和感が生まれる。みんな知っているけど日常ではあまり使われていない熟語は、ツッコミにおいて使い勝手がいい。
・「気まずぅ〜い!」(ひょうきんツッコミ)
変にこねくり回さず、ストレートかつシンプルな言葉をくだけて言う。シリアスな場面で空気を緩和させるためにひょうきんツッコミは役に立つ。誰かが場違いなことを言って変な空気になった時、誰かの発言を周りがちゃんと拾わなくて沈黙が訪れた時など、使える場面は多々ある。
たとえる
「たとえツッコミ」の本質は、みんなが薄々思っていることの輪郭をくっきりさせるところにある。観ている人に「そうそう、そう思っていた」「確かに」と思ってもらえた時、その爽快な気持ちよさが笑いにつながる。
・「今年いちばんのパンプキンだ」(幻影ツッコミ)
目に映ったものが、過去に見聞きした何かと重なってたとえになる。たとえはゼロから生み出すことは不可能である。過去にそれと似通ったシチュエーションを見たり聞いたりしている必要がある。そういう意味では、自分の人生すべてがツッコミにつながっているとも言える。
・「プリンセスか!」(フィクションツッコミ)
自分たちの今の状況を一旦俯瞰して、フィクションにおける「あるある」にたとえることで、マイルドかつポジティブなニュアンスを加える。ヒートアップして捲し立てている人に対して言う「クライマックスか!」もよく使う。現実をそのまま言葉にするよりマイルドかつポジティブな印象になって、悪いようには受け取られない。
・「『アウトレイジ』出てました?」(オブラート固有名詞ツッコミ)
角が立ちそうなワードを固有名詞でたとえて表現することでポジティブ感を出す。
無理しない
ツッコミは万能ではない。「無理してツッコまない方がいい」と判断するシチュエーションはたくさんある。
・「真剣に聞いちゃいましたよ」(ツッコミ保留)
相手がボケているのか真剣に話してるのかわからない時には、一旦「本気」と捉えて話を真剣に聞く。初手から「冗談」と捉えてツッコミを入れ、「いや、本気で言ってるんだけど」と返された時のリカバリーはかなり大変である。万が一この状態に陥った場合には、とにかくスピーディに誠意のこもった謝罪をする。ツッコミを保留しておけば、冗談だった時に「いや、真剣に聞いちゃいましたよ」「騙されたわ」と受け身が取れる。
・「10年玉集めが趣味なんですか? 珍しっ!」(ノーリスクツッコミ)
ツッコミは役割として訂正や否定を担う部分が大きいので、どうしても上から目線に思われてしまうリスクがある。なので、場面によってはなるべく自分の価値観を押し付けないツッコミを心がけることが必要である。自分の価値観に基づいたツッコミは、相手が嫌な気持ちになる可能性があるため、その代わりに「珍しっ!」や「稀有ですねぇ」だったら、印象が変わる。