マンガ誌アプリ「ジャンプ+」
「ジャンプ+」は、2024年9月に創刊10周年を迎えた。出版社の中でいち早くデジタルマンガの世界に参入し、今では『SPY×FAMILY』や『怪獣8号』『ダンダダン』など数多くのオリジナル話題作・ヒット作を生み出している。
「ジャンプ+」は、急速にユーザーを集めた。当初、1年で100万ダウンロードを目標にしていたが、創刊20日で達成した。当時、電子版を配信していたのは講談社の「モーニング」を母体とする「Dモーニング」だけで、保守的な雰囲気が漂う出版界において、最も売れている「ジャンプ」がサイマル配信を実施したのは強烈なインパクトがあった。
だが一方で、大きなプレッシャーもあった。「ジャンプのブランド」を汚すことができない。一刻も早く「ジャンプのブランド」に相応しい、紙のコミックスでも売れるヒット作を生み出さなければならない。「ジャンプ+」の作品は、「ジャンプ」と同じく、「ジャンプコミックス」として単行本化される。しかし、「ジャンプ+」のマンガはウェブ上で基本無料で読むことができる。それが、コミックスとして売れるのか、懐疑的な意見の方が大勢を占めていた。しかも、「ジャンプ+」は作品数も多く、創刊当時は実験的な作品も多かった。
「ジャンプ+」は段階を踏んで進化してきた。創刊して少しずつヒット作が出ると、新たな才能のある作家たちが集まってくる。すると読者も増え、宣伝費も増える。作品の閲覧数が増え、コミックスの部数も増え、また新たな才能が集まってくるということを繰り返した。その先に『SPY×FAMILY』が表れ、2020年に発売された6巻で初版100万部を達成した。純粋に「ジャンプ+」の作品として認知され、人気となり、売れたということだ。
いまや「ジャンプ+」アプリのダウンロード数は3000万を超え、新作を発表するマンガアプリとしてトップランナーとなり、マンガ誌アプリでは、エンタメ系アプリの中でも抜きん出たものとなった。
マンガ家デビューの入り口
「ジャンプ+」は、オリジナル新作マンガの部分では利益を生もうとは考えなかった。その理由の1つは、前身の「ジャンプLIVE」での反省があった。無料部分と有料部分が混在し、ユーザー視点に立つとわかりにくいという問題があった。更新時に話題にしてもらうためには、無料の方がいいと考え、創刊当初は「最新話無料」という形に落ち着いた。
当初、役員に提出した企画書もシンプルに「新作がたくさんあるマンガアプリをつくります」というものだった。しかし、それでは利益を出せずに続けられない。そこで、紙の「ジャンプ」発売と同時に電子版を有料配信する企画を出した。オリジナル新作マンガを基本無料で配信し、「ジャンプ」のサイマル配信やコミックスの販売を収入源とする、「ジャンプ+」の骨子ができあがった。
サイマル配信を中心とした売り上げは好調ですぐに黒字化した。あとはオリジナルマンガだ。何としても近い将来「ジャンプ+」から100万部売れるマンガをつくりだす目標が明確になった。
サイマル配信機能に加え、オリジナルマンガをメインにするために、もう1つやりたいことがあった。「ジャンプ+」は、そもそも知られていないから、仮に「ジャンプ+」でマンガ賞を創設しても応募作は集まらない。だからこそ「ジャンプ+」と並行しつつ、別枠として誰でも投稿できる場が必要だと考えた。何より、デビューしたいマンガ投稿者にとって、デジタルの世界においても、「ジャンプ」というブランドが一番でなければならない。
「ジャンプルーキー」は、「ジャンプ+」ローンチの同日、β版が公開され、作品の応募受付が開始された。すぐに「月間ルーキー賞」も設立され、優秀作品が「ジャンプ+」に読み切りとして掲載されるというサイクルもできあがり、デビューへの道筋が明確になったことでさらに投稿者が増えていった。それに伴い投稿者のレベルも上がり、「ルーキー」出身作家による「ジャンプ+」掲載作品数は、10年で110作品を超え、「ジャンプ+」主力作品も生まれた。
読み切りは「ジャンプ+」の売りの1つになり、ブランド化した。年間300本以上、つまり毎日のように読み切り作品が掲載されている。それは「週刊少年ジャンプ」創刊時からの「読み切り重視」の精神を継承し、拡大したものといえる。読み切りは1話しかないから単行本化して売るのは難しい。しかし「ジャンプ+」はその部分にこそ鉱脈を見ていた。
『ルックバック』のコミックスは、「短編集」という形にせず、単体として発行したが売れた。今、エンタメ界では、面白いものを無料で見せて、その面白さで衝撃を与えてファンになってもらうという考え方が1つの潮流になっている。ファンになってくれれば、結果的に大きな利益を生むのだ。その最たる例が『ルックバック』だった。