「やりたいことがない」はマイナスではない
調査によれば、約40%の新入社員が「やりたい仕事が明確でない」と回答している。さらに35歳以上の転職希望者の60%以上が「自分のやりたいことがわからない」と答えている。「やりたいことがない」ことは、決してマイナスではない。「やりたいこと」を捉えすぎている人の方が、かえってキャリアの選択肢を狭めてしまうことがある。
やりたいことがわからない「Willなし人間」を、「日々の仕事に全力で向かう人」と定義している。長期的に大きなビジョンがなくても、目の前にいる人の役に立つことを大切にすることで、気づけばキャリアに必要な能力や経験が身に付く。つまり、キャリアの選択肢を広げるために、まずは「今、やるべきこと」を重視する生き方を続けてきたと言える。できることを増やして、キャリアの選択肢を最大化することで、キャリアの道筋が見えてくる。
今「やりたいこと」が見つかっていなくても問題はない。但し、今やっていることに意義を見出す努力は意識した方がいい。自分の仕事に意義を見出すことで、日々の満足感や幸福感がより高まる。大きなWillがなくても、今取り組んでいる仕事に価値があることを信じ、その仕事に真摯に向き合うことで、それが未来に向けて大きな資産となる。
過去にやってきたことがキャリアの礎になる
自分のキャリアの現在地は、社内での評価だけでなく、社外の人との距離や市場動向で決まるため、自分一人で正確に把握することは難しい。未来に関しても、不確実性が常に伴う。しかし、過去に関しては、揺るがない事実としてそこに存在する。過去の経験、そこで得た知識やスキル、失敗や成功といった出来事が、今後のキャリアを築くための礎となる。
過去の経験は、単なる履歴ではない。過去を振り返り、経験と能力を整理し、「過去がこれからのキャリアにどうつながるのか」を考えることで、目標が具体的になり、実行するためのステップが見えてくる。
過去の経験を分解し、得られた経験と能力を理解する
キャリアの市場価値を測る重要な指標の1つは「掴めるキャリア選択肢の多さ」である。1つのキャリアだけで突き抜けて勝負ができる人は稀である。重要なのは、その周辺のキャリアを合格点まで伸ばして組み合わせることで、複数のキャリア選択肢を持つことである。選択肢が多いほどチャンスも広がる。
会社の都合に縛られたキャリアではなく、どこでも通用するキャリアを築くためには、自分が市場の中でどう位置づけられているかを常に考えることが必要である。
「選べる自分」になるための第一歩は、過去の経験を細かく分解し、その経験を通して得た能力を正しく理解することである。経験と能力の違いをしっかり認識することが、効果的なキャリア戦略を立てるための基礎となる。
- 経験:実際にやったこと、過去に携わった業務そのもの
- 能力:経験を通じて得た力、結果を出すために必要な力
経験からどれだけ学び、成長できたかが能力として現れる。経験は求人内容との類似性を示す材料になり、能力は結果を出す力の「再現性」を示す材料になる。経験と能力を把握し、自分の持つ特性や大切な価値観などから、自分に適したキャリア戦略を練る必要がある。
キャリア戦略を練る
①経験をできる限り分解(ピース化)して書き出す
主業務以外にもやったことがあるものについては全て書き出す。本業以外にも副業やプロボノでの活動経験があれば、それも全て書き出す。
②ピースに「好き/得意/ストレス」ラベルを貼る
ラベルの正確性が、キャリア戦略の精度を上げるため、丁寧に行う。ラベルを貼ったピースが、キャリアを導き出す基本戦略になる。
- ラベルなし:仕事だからやるけど、特に好きでも嫌いでもないこと
- 好き×得意のダブルラベル:最も価値を発揮できること
- 得意ラベル:価値を発揮できること
- ストレスラベル:なるべく選ばない方がよいこと
価値発揮できるものを中心に置き、ストレスを排除することが基本戦略となる。その中で好きで得意なピースを組み合わせるとどうなるかを考える。但し、例外として、やれることを増やして経験を積むという短期的なキャリア成長を優先する場合には、基本戦略に反する選択が長期的にいいキャリア選択になる場合もある。
③再現性のある能力を知る
面接では「再現性」がより重要な要素として評価される。そのため、過去の成功を新しい環境でどのように再現できるかを示す必要がある。整理されたピースの内容を示すだけでは、面接官にうまく伝わらない。例えば、「コミュニケーション力」という抽象的な表現ではなく、その能力がどのような場面でどう発揮されたのかを明確にすることが重要になる。ポイントは次の2つ。
- 能力を示す実績を具体化する
- 再現性を示すエピソードを用意する