質問は組織に学習と成果をもたらす
周りの人間から直ちに答えが欲しいと求められた時、私たちはすぐさま解決策を示そうとするのを思いとどまって、逆に相手に質問できるようにならなくてはいけない。質問は短期的な成果と、長期的な学習や成功の両方を生み出せる。問題は、質問することよりも、答えることがリーダーの役割だと思われていることにある。
組織が成功できるかどうかは、学習する組織を築けるかどうかにかかっている。学習する組織とは、変化する環境に素早く適応できる組織だ。変化する環境においては、あらゆる取り組みが機会になり、学習と事業の目標とが必然的に結びつく。この学習する組織は、質問を奨励する文化がないところには決して生まれない。質問を避ける組織やリーダーは学ぶ機会を逸している。
有能なリーダーだからといって、すべての答えを知っているわけではない。その代わり、有能なリーダーは質問することを習慣にしている。リーダーシップを強化したければ、肝心なのは質問することと、周りの者たちにも質問するよう促すことだ。
質問する組織文化
リーダーは質問をうまく使うことで、質問が歓迎され、前提が問い直され、新しい解決策が構築される文化を築くことができる。質問は組織内に探求する文化を築き、探求する文化は学習する組織を生む。相手に質問をして、一緒に答えを探そうとする時、私たちは情報を共有するだけでなく、実は責任も共有している。質問する文化とは、責任を共有する文化なのだ。共有の文化を築けば、「私たち」の文化が醸成される。組織の様々なメンバーが価値観の形成に携わり、組織内に価値観が浸透する。
質問をする文化には、次のような6つの特徴がある。
- わからない時には、ためらわずに「わからない」と言う
- 質問を拒まないだけでなく、質問をするよう促す
- 建設的な質問をするのに必要なスキルを習得できるよう支援されている
- 能力を引き出す質問を心がけ、能力を抑圧する質問をしない
- 「正しい答え」を求めるよりも、質問し、答えを探す過程を大切にする
- リスクテイクを奨励する
質問は個人やチームや組織の学習を促進する上での土台になる。質問はすべて学びの機会になり得る。深い学習には、じっくり考えることが欠かせず、質問が欠かせない。学習のもとになるのは、好奇心と質問だ。「これは何?」という素朴な疑問を持つこと、とりわけ難しい質問がきっかけとなって、考えること、学ぶことが始まる。大切なのは、質問し、学び続けることだ。
いい質問をする
リーダーが質問する上で何が重要かは、その質問によって何を成し遂げたいかによる。どのような質問をするかには、どのような価値を大切にするべきかや、それにどの程度の労力を費やすべきかについての見解が示される。
質問は何に意識を向けるかを大きく左右する。リーダーが質問すると、部下はその答えを求めて、頭の中で探求の旅に出る。その旅は、質問がよければ、前向きで生産的なものになり、創造的な解決策や、新しい洞察や、新鮮な発想につながる。しかし質問がまずければ、後ろ向きで非生産的なものになり、自己弁護や自信喪失につながる。
リーダーにとって、どういう質問がいい質問になるのかに、1つの正しい答えがあるわけではない。とは言え、いい質問には次のような特徴がある。
- 重要なことに関心を向けさせ、潜在的な力を引き出す
- 深い熟考を促す
- 長い間当たり前と思われ、もっといい新しいやり方が取り入れられるのを阻んでいたことに疑問を投げかける
- 勇気と長所を引き出す
- 発想の転換につながる
- 優れた解決策への扉を開く鍵が含まれている
無知やリスクや混乱といった状況のもとで、次に何をするべきかが誰にもわかっていない時に発される「新鮮な質問」がいい質問だ。いい質問は、無私のものであり、質問者に都合のいい情報や反応を引き出そうとかいう意図を伴わない。普通は強力的なものであり、洞察を目指すものであり、通説に異を唱えるものだ。また、大抵は謙虚であり、分かち合いの精神に基づいている。
最初からいい質問ができるリーダーはいない。いい質問を見つけるための、試行錯誤に終わりはない。いい質問をするためには、以下のことに目を向ければいい。
- 状況を把握する
より大きな文脈を感じ取って、現在のビジネス環境を広範囲に見渡すとともに、その輪郭を掴む。状況の悪化や好転の兆しに注意する。 - 核となる問いを見つける
問いを分類して、問い同士の間にどういう関係があるかを考える。隠された深いテーマを突き止める - どういうことが可能かを思い描く
「大きな問い」への答えが見つかったら、どのような状況が生まれるかを考える。できる限りくっきりと、どういうことが可能かを思い描く - 実行可能な戦略を練る
実行可能な戦略は、切実な問いへの答えと、その問いから喚起された展望から生まれる