ゲームフルデザイン 「やりたくなる」を生み出すゲーミフィケーションの進化

発刊
2025年4月11日
ページ数
248ページ
読了目安
428分
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推薦者

人間の本質的欲求に基づく体験設計の手法
人間の本質的な欲求を9つに分類し、その欲求に応じて、人を動機づけし、自発的に動かすゲームで活用されている体験設計の手法を紹介している一冊。

ゲーム以外の分野で、どのように人を動かす手法を取り入れていけば良いのか。ゲームで行われている手法を解説しながら、その知見を社会に実装するための考え方が書かれています。

ゲームフルデザインとは

ゲームフルデザインとは、ゲームの要素とゲームデザインの技術をゲーム以外の分野に応用することである。これにより、ユーザーエンゲージメントの向上、行動変容の促進、学習体験の強化など、様々な目的が達成できる。ゲームの力を活用することで、私たちは新しい視点から問題を解決し、新しい価値を創造することができる。

 

ゲームフルデザインとは、本質的なゲーミフィケーションの活用と定義される。従来のゲーミフィケーションは「ゲームのメカニズムを非ゲーム的な分野に応用することで、ゲームのモチベーションを高めたり、その行動に影響を及ぼしたりする幅広いトレンド」として、広がりを見せたが、そのトレンドは数年で衰退している。

産業界で、ゲーミフィケーションは、より実行しやすい形として、方法論としての解釈が進んだ。その手法は、ポイント(Point)、称号(Badge)、ランキング(Leaderboard)の頭文字をとって「PBL」とも呼ばれる。しかし、人間は単なる方法論に合わせて行動を変えるほど単純ではない。そして方法論をそのまま活用した各企業は、期待するほどの効果が得られずに、ゲーミフィケーションの活用はダウントレンドになってしまった。

 

方法論に飛び付かず、ゲームの本質を捉えた上で体験設計を行うことが、本質的なゲーミフィケーションの活用と言え、ゲームフルデザインである。

 

人間の本質的な欲求を理解する

金銭や外的強制によらず、人間が自発的・能動的に行動を変えたくなり、その変化を通じて、課題が解決され世界がより良くなっていく、そんな社会の幸福度を高める考え方・手法がゲームフルデザインである。ゲームでは、人間の本質的な欲求を理解した上でビヘイビアデザイン(やりたくなる)の手法を考えていく。具体的な実践として、9つの欲求ごとに効果的な手法をとる。

 

人間の欲求が引き起こされる要因は大きく2種類あると定義される。

①環境軸(主体、状況、客体)

主体:自分1人で欲求が喚起されるもの

状況:人間が置かれている状況によって欲求が喚起されるもの

客体:人間の周りにあるモノによって欲求が喚起されるもの

 

②時間軸(未来、現在、過去)

未来:未来に起こり得るものへの期待や想像によって欲求が喚起されるもの

現在:現時点で起こっていることによって欲求が喚起されるもの

過去:過去に起こった現象や事象によって欲求が喚起されるもの

 

この3×3の組み合わせで欲求が定義される。

 

9つの欲求

人間の本質的欲求は9つに分類され、それぞれの欲求に応じたゲームフルデザインの手法をとる。

 

①達成欲求(未来×主体)

進歩・進化・進捗といった、前に進んでいる、目標に着実に向かっているという進歩実感がある時に、人間は欲求が喚起される。

  • ストックポイント
  • アチーブメントシンボル
  • 進捗可視化
  • 段階ゴール
  • 踊り場
  • 非連続成長
  • 相対的進歩表現
  • 進行サポート
  • 機能制限
  • 緊張の緩和
  • 達成演出

 

②求知欲求(未来×状況)

自分の知らないことに対して知りたくなってしまうといった、偶然性・好奇心によって人間は行動を喚起される。

  • 不確実性トッピング
  • 外部環境インタラクション
  • おまけくじ
  • オープン懸賞
  • ランダム報酬
  • ランダム増減
  • 期待値超過設定
  • ランダムビジュアライズ
  • イベントフラグ
  • マルチシナリオ

 

③獲得欲求(未来×客体)

珍しいものがあるとつい欲しくなってしまうといった、希少性によって人間は行動を喚起される。

  • レアリティ定義
  • レアリティビジュアライズ
  • ニンジンぶら下げ
  • 手法制限
  • 属性制限
  • 確率的制限

 

④有能欲求(現在×主体)

今この瞬間に自分自身が創造性を発揮できていると感じられると、もっとやりたいと内発的動機づけがなされる。

  • ルール明示
  • サンドボックス
  • あそび
  • 複数最適解
  • トレードオフ
  • 組み合わせシステム

 

⑤感性欲求(現在×状況)

非思考的な、脊髄的に反応してしまう快楽・快感といった本能的欲求。

  • 視覚的インパクト
  • 身体アクション
  • 五感的快
  • アンダーコントロール
  • 怖いもの見たさ
  • リズム

 

⑥保存欲求(現在×客体)

頭でわかっているのになかなかできないといった、愛着や一貫性への執着という不合理な行動欲求。

  • セルフビルド
  • アレンジ
  • パーソナライズ
  • ヒストリー機能
  • ネームプレート
  • 日常的接点

 

⑦自律欲求(過去×主体)

過去の自身の知識や体験から、自己有能感など自らの創造性を発揮できると感じられる時に強い動機づけが生まれる欲求。

  • ストーリーテリング
  • 世界観
  • 所属意識
  • 仮想敵
  • 特別扱い
  • 理解者的コミュニケーション

 

⑧関係欲求(過去×状況)

他者の存在があり、そこを意識するからこそ人間の行動が喚起される。

  • メンターシップ
  • 互酬の機会
  • 社会的規範
  • トレンド
  • 対抗心
  • 序列化

 

⑨回避欲求(過去×客体)

損失を回避することに大きな動機づけがされる人間の特性。

  • 保有先行
  • 大盤振る舞い
  • 連続報酬
  • サンクコスト訴求
  • 取り残され感
  • 横取り恐怖