QUEST「質問」の哲学 「究極の知性」と「勇敢な思考」をもたらす

発刊
2025年3月26日
ページ数
408ページ
読了目安
496分
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深い会話を引き出す質問の技法
ソクラテスの対話術をもとに、物事を探求するための「質問」の哲学を紹介している一冊。

表面的な会話にとどまらず、会話を深くし、新しい視点を得たり、意外な発想を得るための「質問」をするための心得やテクニックが書かれています。自分は物事を知らないという前提に立って、質問をうまく使いこなすことで、思考を深めるためことができるとし、実践的なコミュニケーションのあり方を学ぶことができます。

質問することで深く探求する

「何を問うべきか」を問うことで、あらゆることを深く知ることができるようになる。新しい可能性や視点を探求し、自分の思考の「スイッチ」が入った時、会話は深くなり、新たな発見や意外な発想に辿り着けるようになる。

 

ソクラテスほど実践的な哲学者はいなかった。彼は人生で最も大切なことは何かを問い、人々を哲学的議論に引き込んだ。そして、実に多くの質問をした。その理由は主に2つあった。

  1. 「私は何も知らないことを知っている」という原則のもと、真の知識を探求した
  2. 相手が「真の知識」を求めるように仕向けた

 

現代社会では、誰もが「自分は物事を知っている」と思っていて、事実よりも意見が多く語られる。それでも、オープンさや好奇心を保ち、「知らないことを知っている」という態度は取れる。ソクラテスの質問への実践的なアプローチは、その試金石になる。

 

ソクラテス的な態度

①「自分は何も知らない」という態度で疑問を持つ

ソクラテスは、己を知り、「自分は何も知らない」と知っている人だけが、真の知識を得られると考えていた。彼は目の前のものを疑い、知らないことを自覚し、思い込みをもたなかった。誰もが当たり前だと考えていることにも疑問の目を向けた。

私たちが重要な質問をしようとするのをやめてしまうのは、ソクラテスとは違い、物事を知っていると思い込んでいるからだ。ソクラテス的な態度は、大人が慣れ親しんでいる態度とは本質的に相容れないものである。この態度を身につけるには、継続的な訓練が必要である。

 

ソクラテス的な態度を身につけるための第一歩は、自分が「何」を、「どのように」考えているのかを自覚することだ。それによって、思考を正しい方向に導き、必要に応じて軌道修正し、適切な質問ができるようになる。ラジオやテレビのインタビューを聞いたり、他人同士の会話を観察したりして、その時の自分の思考を追ってみること。「今、ここ」で自分がどんな思考をしているかに意識を向けることから始まる。

 

②不思議の感覚を大切にする

ソクラテスは何世紀の前に「哲学は不思議の感覚から始まる」と言っていた。純粋な疑問の大きな材料は、不思議の感覚だ。不思議とは選択だ。全く同じ状況を、不思議だと思うこともあれば、思わないこともある。その状況とその受け止め方を選択することで、不思議の感覚が生じるかどうかは変わる。

不思議の感覚とは、自明と思われるものの先を見ることだ。この感覚を持つことは選択できる。

 

③本心から「知りたい」を思う

有意義な会話のためには、相手の話に興味を持つことが欠かせない。相手が何を考え、どんな経験をし、どんな世界観を持っているのかに関心を抱くのだ。しかし、こうした好奇心が欠けていることは多い。私たちは、誰かと話をしていながら、実際には自分自身にしか興味がない。

 

好奇心を持ち続けるとは、「自分には知らないことがある」と認めることだ。他人の経験や思考、感情はわからない。相手のことは相手が一番知っているのだ。相手を、話をしているテーマの専門家だと見なす。その時、自分の意見は全く取るに足らないものだと考える。そして、相手に集中する。

 

④質問をするための「勇気」を持つ

表面的ではない、隠れた真実を突きつけるような質問は、受け入れやすいものではない。それは相手を挑発し、驚かせ、狼狽させるものになりかねない。質問をし、その答えに耳を傾けようとするには勇気が必要であり、リスクを覚悟しなければならない。自分の質問が的を射ているかどうか、相手にどう受け取られるかは、尋ねてみるまでわからない。

 

誰だっていきなり相手の心の中に立ち入るようなぶっきらぼうな質問はしたくない。しかし、より良い、より意味のある、真摯な会話がしたいのなら、当たり障りのない話題ばかりでお茶を濁してはならない。状況が適切だと感じ、相手に答えてくれるという気配があるのなら、良い質問をすることで、率直かつ魅力的な会話の土台を築ける。

 

⑤自分の判断を絶対的なものだと思わない

私たちは判断を急ぎ過ぎて、ニュアンスや機微を見落とし、不完全な情報に基づいて意見を口にしてしまう。また、自分の考えに固執し過ぎる。

ソクラテス的な態度を身につけるとは、状況をありのままに観察し、できるだけ客観的に判断することだ。その次に「本当にこの判断で正しいだろうか。自分の発言や思考は適切だろうか」と考えることだ。自分の判断をありのままに観察する。その視点が、無意識的な仮定や前提、偏見、人間観の土台になっていることに自覚的であろうとする。これらを意識し、積極的に物事を見ようとし始めると、自分の思考がいかに強く、柔軟で、機敏になるかにすぐ気づく。判断をして、そのことを意識し、一歩下がって観察することだ。