Breaking Twitter イーロン・マスク 史上最悪の企業買収

発刊
2025年3月26日
ページ数
424ページ
読了目安
518分
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推薦者

ツイッター買収後の大混乱
イーロン・マスクによるツイッター買収を様々な関係者へのインタビューを元に描いたノンフィクション。

ツイッターをイデオロギーのために買収したイーロン・マスクが、ツイッターを混乱させ、崩壊させていった中で繰り広げられてきたことが描かれており、マスクの素顔が、様々な角度から描かれています。

「世界のタウンホール」というビジョン

マスクはツイッターの使い方が並大抵ではない。フォロワーが凄まじく多いということもあるが、とにかくよくつぶやく。移動中や夜中、朝起きた時などに、思いつくままに書く、ミームをリツイートする、哲学的なことを書く。ツイッターを指1本でアクセスできる最高のショーだと考えるなら、マスクはトップクラスの客寄せ効果を発揮する芸人だ。それもあってか、ジャック・ドーシーと仲がいい。2人はビリオネアで、金融の分散化などにおいて個人の自由意志を尊重する、言論の自由を重要だと考えるなど共通点が多い。そして、ある日、ドーシーがツイッターのCEOを辞した。

 

足枷のない言論の自由が保証されている場「世界のタウンホール」というジャックの設計図は間違いなく革命的である。ただ、最近はほころびが目立ち、ばらけてしまうのも時間の問題だと、マスクには思えてならなかった。マスクが、ツイッターを使う理由は、テスラさえもごく一部を構成するだけの大きなミッションにおいて、世界のタウンホールが大きな役割を果たしてくれると信じているからだ。

ツイッターはまずい状態になっている。主流と異なる意見を抑圧し、黙らせる力が急速に広がっている。多数派の意見に屈しないアカウントは、凍結やシャドウバン、場合によっては削除という強行手段により、どんどん数を減らしている。この見立てが正しければ、電気自動車や持続可能エネルギーのはるか先まで行くという大きなミッションが危うくなってしまう。複数惑星に住めるところまで人類文明が到達するのであれば、その状態を十分な期間、保ちたいのであれば、文明が前に進み続け、暗黒時代に戻らないようにしなければならない。マスクは、この新たな脅威について考え始めた。そして、是正の第一歩として、ツイッター株を購入した。

 

イデオロギーの矛盾

ツイッターが生き残るには広告収入を追う以外にない。論議を呼びそうなコンテンツの隣に出稿したい広告主などいないので、規制を強くした方が広告収入は増える。広告費に頼っている限り、ツイッターにおける言論が真に自由となる日は来ないはずだ。

マスクは、サブスクリプションを推進すること、認証の一形態としてブルーチェックを販売することについては、今後、絶対に必要だと強く思うようになった。それこそが、広告主に頼らない収益、平等で認証されたユーザーエクスペリエンスなのである。

 

ツイッターを買収した際、マスクは「嫌いな人間が気に入らないことを言う」のが言論の自由だと定義した。マスクは、イデオロギーからツイッター買収に乗り出した。目的は、足枷のない言論の自由を実現すること。そのため、圧政的なモデレーションはなくす、凍結したアカウントは復活させるし、アルゴリズムはオープンにすると約束した。

しかし、マスクの2歳になる息子Xを乗せた車が位置情報をもとにストーカーされる事件が起きたことで変わった。アカウントはバーチャルなオンラインの世界の存在なのに、その効果はリアルな物理世界にも波及する。マスクは、Xを乗せた車のドライバーが撮影した「暴漢」が映った10秒の動画を投稿し、その男の素性をさらせと1億2000万人のフォロワーに呼びかけた。そして、自分でツイッターをチェックしては、次々に批判的なジャーナリストのアカウントを凍結するように指示していった。

 

その後、凍結のほとんどが解除されたが、マスクの中で何かが変わった。言論の自由にまつわる問題は、エンジンの燃焼率などと違い、計算でどうこうできるものではない。言論の自由とはぐちゃぐちゃで訳のわからないものであり、対話から収益を上げるビジネスは他と違う問題が起きがちだし、それが色々と絡み合って惨事になりがちだ。なぜなら、人を中心とした、感情が渦巻くビジネスだからだ。

 

ツイッターの崩壊

ツイッターは、大きく3つの面で病んでいる。収益、ユーザーエンゲージメント、社員の士気だ。マスクの周りには、彼の戦略や決断、気まぐれを支持するだけの人しかいない。10年も会社に尽くしてきた社員を考えもせずに切りまくり、会社のシステムが崩れかねないほどの人員削減を強行した。

ユーザーエンゲージメントも、買収以来、下がり続けている。そもそも、トップを信じない社員と社員を信じないトップでまともな会社が作れるはずがない。であるのに、恐れと陰口、嫌悪ばかりが社員に広がり、コミュニケーションはゼロとなっている。残る社員の80%は転職先を探している。

 

マスクは、ある種の公平性を求めてブルーチェックのシステムをいじり、最終的に爆発させてしまった。言論の自由は、言論がさかんに交わされるように守るガードレール的なものがなければ実現できない。マスクはツイッターを混乱させ、そのしっぺ返しで、自分の評判に、おそらく取り返しがつかないほどの傷をつけてしまった。