デンマーク人のコミュニケーション
IMDの調査によれば、デンマークの国際競争力は2年連続1位に輝き、今でも世界トップクラスだ。国際競争力を決定づける4つの指標の内の1つ「ビジネス効率性」は、5年連続で世界1位に輝いている。デンマーク人は、成果を最大化させる「コミュニケーション力」を持っている。
デンマーク人のコミュニケーションはシンプルである。何でもストレートに話すから、水面下で細かい根回しをする必要もなければ、終業後に愚痴大会を開く必要もない。飲み会を開く習慣もないし、勤務時間外に、仕事関係の人との「付き合い」もしない。一方で、勤務時間中の会議、メール、チャットのやり取りも最低限だ。職場の人とは、勤務時間中に「軽い雑談」をして、お互いのことをことをサクッと知る。それだけで十分にコミュニケーションは取れるのだ。
成果を最大化させるコミュニケーションには「コツ」がある。それは、肩の力が抜けたラクで軽いコミュニケーションだ。彼らは、短い勤務時間の中に「軽い雑談」を取り入れている。近況報告、ランチ、週に1回の朝食会の開催からチームメンバーの誕生日祝いまでする。雑談と言っても、豊富な知識も気の利いた冗談もいらない。時間もかけなくていい。たった3分、軽く会話するだけでいい。
会議より3分の雑談
本当に良い仕事をするためには、仕事に「真面目に」向き合ってはいけない。むしろ、テキトーに気楽に構えて、誰かと雑談すると、意外にも突破口が見えてくる。重たい空気が流れる職場から良いアイデアは生まれない。
カジュアルな場での「3分の雑談」の効力は意外にも大きい。目の前の仕事とは関係なくても、とりあえず軽く近況を伝えてみる。断られるかもしれなくても、とりあえず気になった人に声をかけてみる。何にも協力は得られないかもしれなくても、より会えず軽く相談してみる。この「とりあえず」という軽いノリがポイントである。
所詮、雑談の一部に過ぎないので、それが何かにつながらなくても、それで当然と思えるし、何も起こらなくても、後に残るのは気楽な関係だけである。だが、実際には何にもつながらないように思えた会話が、後々に大きな意味を持つこともある。
カギは「相手への好奇心」と「サッパリ感」だ。エレベーターを待つ時間、オフィスから駅までの道中、飲食店で料理が運ばれてくるまでの間などの「空白の時間」で、相手が今、どんな仕事や活動をしているのか、どんなことに関心があるのか、何を求めているのかを好奇心から尋ねてみる。好奇心を持って会話することで、ちょっとした一言が「何か」につながりやすくなる。
相手の話が自分の「アンテナ」に引っかかったら、良さそうな情報や人を紹介できるし、自分の話が相手の「アンテナ」に引っかかったら、良さそうな情報や人を紹介してもらえるかもしれない。もし、共通の関心事があると判明したら、今すぐ何か一緒にできることもあるかもしれない。けれど、あくまでも雑談なのだ。
会議の冒頭には「ちょっとした雑談」を入れる。すると初対面の人同士でも、なんとなくお互いを知れて、親近感が湧く。それだけで、みんなが発言しやすくなる。
「雑談」がある職場では、イノベーションが起こりやすい。みんなで雑談をしている時に誰かが何気なく話したことに、「あ、それいいね」と反応して、そのアイデアを拾う。そんなところから、イノベーションの火種が生まれる。
お互いを深く知れる良い雑談は、普段の「役」を脱いでゆっくりできる「非日常空間」で生まれる。ショップやラウンジ、公園のベンチ、カフェなどの開放的で自由な空間では、普段とはちょっと違う会話が生まれる。「役」を脱いだ「顔」が見えると、それが、仕事のしやすさにつながることもある。
デンマークでは、職場でのランチタイムも「役」を脱ぐ時間である。30分の短いランチタイムは、上司も部下もインターンもごちゃ混ぜだ。みんなが適当な席に座って、フラットに会話を交わす。主な話題は、近況報告である。週末の出来事、昨日の出来事などお互いの近況をアップデートして、息抜きをしながら、お互いの「状態」を感じ合う。初対面の人と同席した時は、簡単な自己紹介をする。そして、この人とはもう少し話せそうだと思ったら、プライベートの近況や自分の関心事なども少し話す。そうすると「顔」が見えるようになって、次から気軽に話せるようになる。
勤務時間中の「短い隙間時間」を、お互いを少し知り、お互いの状況を軽く把握するために、最大限に活用する。それこそが、デンマーク人の大切にするコミュニケーションである。