カオスを構成する3要素
組織が革新的なアイデアを招来し、体制の中でそれを縦横にやり取りするためには、組織の中に小さな「カオス」を創造することが必要である。小さなカオスを意識的に導入することで、思いもよらない「偶然(セレンディピティ)」が生まれる。斬新で創造的なアイデアはそうした風土から芽吹く。
カオスは、まず「余白」をつくり出す。そして、それが「異分子」の入り込む余地となる。そこから、思いもよらぬ結果が生まれる。この現象を「計画されたセレンディピティ」と呼ぶ。このカオスを構成する三要素「余白」「異分子」「計画されたセレンディピティ」を上手に活かすことで、組織に「穏やかなカオス」を導入できる。
①余白
脳は、デフォルト・モード・ネットワークの活動を通じて、無意識に毎日取り込んでいる膨大な量の情報を結びつけている。それは、異なるデータや情報の橋渡しをし、それらをつなぎ合わせて、世界の把握を促す。データや情報の結び付けは、意図的に行うことも予測することもできない。
そこで「余白」の出番となる。「余白」は、新たな結びつきをつくり出す。
②異分子
組織内に小さな余白を設けると、「異分子」という名の逸材を呼び込む余地ができる。異分子は、全く異質な要素を、既存の文化や社会、組織に導入し、拡散させる。それが、独自の発想を追求し、斬新なアイデアを生み出す土壌になる。
③計画されたセレンディピティ
様々な出来事が生じる時、そこには人間がじっくりと練り上げた「計画」と、人間が全く制御できない「偶然」とが関与する。しかし両者の中間には、もう1つの大切な要素が存在する。それが「計画された偶然」である。セレンディピティを呼び起こすための条件を整えることは、人間の力でも大いに可能である。
セレンディピティを呼び起こすためには、次の3つの秘訣がある。
- 目指すべきゴールを明確にする
- セレンディピティを妨げる条件に用心する
- 座を取り持つ「助っ人」を用意する
カオスの5つのルール
カオスの導入には混乱が伴うものの、その手綱を上手にとるためのルールがある。
①数字の誘惑に負けるな
正確な決断を下すには、数字のデータだけでなく、状況についての適切な説明も必要になる。しかし、どれほど重要な要素であれ、数字で表せなければ無視されてしまいやすい。成果を数字で評価することは、カオスのもたらす微妙な効果を見えなくしてしまう。組織に「カオス」を導入する時は、そこから生まれる成果は数字で測定しにくいことを、心得るべきである。
②制御されたカオスであれ
企業内に、小さな「カオスのポケット」を創造することは大切である。同時に、それ以外の組織の各部は、常に整然と機能していなくてはならない。セレンディピティは、人間の側で準備できる条件をすべて抜かりなく整えた環境でこそ、不意に起こるものである。指導者は、見通しが不正確、不確実でもそれを受け入れなければならない。それでいながら、カオスのまわりには安定した確実な環境を維持しなければならない。
③「余白」を生産的に活用せよ
「余白」を創造し、維持し、活用するためには、次の4つの方法がある。
- 余白は、ある問題に既に十分な精神的エネルギーを費やし、しかも目標が明確である場合に、効果を発揮する
- 必要な余白の量を考える
- 運動をする
- 話し合いの前に1分間ほど黙って、その日のテーマについて考えてもらう
④「異分子」を迎え入れよ
誰かを組織の一員にする時、私たちは自分とどこか似ている相手を歓迎しやすい。しかし、共通の何かを持った人は、考え方、価値観、関心、行動様式、文化的背景など、共通する要素が多い。だからこそ、自分とは違う何かを持つ「異分子」は、意図して迎え入れる必要がある。その過程で、次の3つの点を自問するといい。
- その人は本当に異分子か?
- 異分子か奇人か?
- 組織内の異分子を忘れていないか?
⑤セレンディピティを呼び込め
「計画されたセレンディピティ」を実現するためには、多彩な人々が自由に触れ合える機会を積極的につくり出せばいい。運を頼りに待ち続ける必要はない。組織がセレンディピティを促す過程で、閉ざされていた門戸が開かれ、新たな情報とアイデアの交流が進み、人々の間に画期的な化学反応が起こり、想像もしなかった結果が生み出される。