マーケティングの新しい地図

発刊
2025年2月26日
ページ数
400ページ
読了目安
495分
推薦ポイント 6P
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これからのマーケティングに必要なものとは
マーケティングの本質とは何かを考えさせ、テクノロジーの進化とともに変化するマーケティングのあり方、求められるものとは何かを問う一冊。

これまでのマーケティングの考え方や変遷、歴史などを振り返り、マーケティングというものを整理しながら、AI時代において、マーケティングが今後どのように変わり、何が求められていくのかが書かれています。
これからのマーケティングを考える上での視点を与えてくれる内容です。

マーケティングの本質

マーケティングの本質は、時代や環境、技術の変化に応じて常に進化し続けることにあり、適用される先によって大きく異なる。その本質と可能性を再考するための補助線が「環世界」という概念である。

この概念は、1930年代に生物学者ユクスキュルが提唱したもので「生物はそれぞれ異なる主観的な環境を知覚している」という考え方に基づいている。同じ世界に生きていても、人間が認識する環境と他の生物が認識する環境は全く違う。

 

環世界は人間以外の生物にとってはDNAレベルで決まっており、生涯変わることはない。しかし、唯一人類は環世界を大きく変えることができる。例えば、テレビの出現の前後で人々が見ることのできる世界は大きく変わった。あるいはインターネットの出現は、人にとって「見たいものを探して見る」ことができるようにした。人類の発展は環世界の拡張の歴史とも言える。

ところが、人々の欲望やニーズは、そう簡単には変わらない。人間に元から備わっているニーズは概ね普遍的である。そう考えると、今必要としているのは。この環世界の概念をマーケティングに適用することではないか。

 

マーケティングにおける環世界の変化

環世界を見事に操っているのはプラットフォーマーである。これはアルゴリズム変更によりなされている。黎明期はユーザー同士が繋がることを意識したアルゴリズムを導入して新規ユーザーとトラフィックを増やし、次第に収益化を図るためにいかに広告を効果的に見せるかを進化させた。また、インフルエンサーが流入経路となることがわかると、インフルエンサーを奨励するようなアルゴリズムが開発された。

 

人間を含む生物にとって、知覚とは視覚をはじめ五感によりなされるものであるが、企業にとってはデータこそが知覚と言える。ビジネスにおいてデータ活用の変化がマーケティングに大きな影響を与えてきた。その代表的な例が、POSデータとID付き購買履歴データである。どんなデータがとれるか、即ち企業が何を知覚できるかが、企業の行動原理を決めている。これが企業にとっての環世界の変化の典型例と言える。

デジタル時代とそれ以前の時代との最大の違いは、行動履歴が全てデータとして残るようになったことである。Web上の閲覧履歴、どこから流入しているか、サイト内での行動履歴、購買履歴、プロモーションへの反応履歴等が全て可視化された。そして、因果関係の解明、予測という点でかなりの精度が出るようになった。また、それを自動化することで人が分析して施策を決めずとも自動的に手が打てるようになった。

 

ミクロな施策で長期の強みを生み出す

「ミクロ・マクロ・ループ」とは、ミクロ情報をマクロ情報に繋ぎ、それをまたマクロレベルにフィードバックするという仮想上のサイクルのことである。企業なら企業という主体を前提に「ではどうしたらよいか」と考えた時、自分の好ましい秩序を生み出す小さなルールは何かと考えることは優れた問いの立て方ではないか。自分の小さな打ち手が回り回って大きな秩序を作ってくれるならば、それは非常に効率の良い施策である。

ミクロの手法は無限にあり、それが長期の強みを生み出すかどうかは自明ではないが、それが見えている本人には長期的には本質的な強みをもたらすものであるという強い確信があるはずである。見えている当人には、その細部へのこだわりが何を生み出すかがわかっているか、他者からはあまりにも細かい施策のため気づかれず、後にその強みが自明のものになるのは戦略的である。

 

こうしたミクロのルールがマクロの秩序を創発するメカニズムの事例には、セブンイレブンの「単品管理」「オープンアカウント制」「粗利分配方式」、任天堂の「スーパーマリオクラブ」、P&Gの「価格テーブル」などがある。ミクロの施策で競争力に大きな影響を与えることこそが、超長期の戦略である。鍵となるのは小さなルールが生み出す構成員の微小な行動の違いの集積が、いかに大きな影響をもたらすかを見抜くことである。

 

これからの時代にマーケターに求められるもの

近年はAIの飛躍的進歩により、マーケティングの意思決定の内、ある程度のものはAIが自動的にできるようになり、精度も上がってきた。従来のセンスの一部は、機械学習でも置き換えることができるようになってきた。

 

問題は、何を測って何を最適化するかである。消費者にとっての環世界は何が知覚できるか、どんな体験ができるかであるが、企業内個人にとっての環世界はKPIである。このような時代に求められるのは、まずは何(KPI)を見て、何を制御するかという「ミクロのルール」がどんな秩序を創発するか見通す目と、どんなルールは変わりやすく、どんなルールは変わりにくいかを見極める洞察力ではないか。俯瞰し思考の自由度を上げることが求められてくる。