雑談でアウトプットの質を高める
博報堂では雑談からアイデアを生み出したり、雑談を活用して問題解決やアイデアのブラッシュアップをしたりしている。そのため博報堂では、30分〜1時間の打ち合わせで5〜10分、1時間以上の打ち合わせになると、15〜20分も雑談することが頻繁にある。
課題解決やアイデア出しを目的とした打ち合わせは、次の4つのプロセスで構成される。
- 共有:目的やゴール、進め方など、打ち合わせの前提となる情報を参加メンバー内で共有する
- 拡散:参加メンバーが事前に準備した案を基に議論を行う。あらゆる可能性を検証し、アイデアをすべて出し尽くす
- 収束:散らばっているアイデアを紐解きながら、課題に沿って取捨選択し、いくつかの方向性に整理していく
- 統一:整理し、方向付けしたアイデアの中から結論を出して、メンバーの意思統一を図る
博報堂では、この2つ目の「拡散」のプロセスを最も重視しており、拡散を加速させるために雑談を使っている。「良いアイデア」は、議論の拡散の後に、結果的についてくるものであるというのが博報堂の考えなのである。
新しい発想を生み出すためには、常識にとらわれない自由な思考が欠かせない。議論が拡散しないまま、次の「収束」のプロセスに入ってしまうと、常識の範囲内(予定調和)におさまった結論になる可能性が高くなる。
最高のアイデアを生み出す雑談の使い方
①思考を拡散させる習慣をつくる
議論の拡散のためにアイデアは質より量を重視するので、3〜4人が集まる打ち合わせでは40程度、多い時では100以上の案が最初に並べられる。アイデアを100個出せるかどうかは、発想力というよりも、思考を拡散させる習慣の有無にある場合が多い。参加メンバー全員が、拡散の意識を強く持たないと、拡散はなかなか起きない。そこで雑談が有効になる。
②本題の「周辺」を探る
拡散のプロセスで一番大切にしているのは「テーマ(目的、議題、課題)そのものを掘り下げること」ではなく、「テーマの周辺を探ること」である。初めからテーマそのものを掘り下げようとすると発想が狭くなる。そのため、拡散のプロセスでは焦らずにテーマの周辺を洗い出すことが重要になる。
博報堂の打ち合わせでは「全然関係ないんだけど」と言いながら、参加メンバーの反応を見て、その打ち合わせで扱える内容の範囲を広げ、議論を拡散させる。みんなが話に乗ってくれば「テーマの範囲内」であることがわかる。
③「確かではないこと」を投げかける
「よくわからないんだけど」という前置きをして、「確かではないこと」を話題にすることで、議論を拡散させる。但し、「よくわからない話」を延々と続けた結果、特に新しい発想につながらなかったというケースは圧倒的に多くなる。
④混沌を恐れない
「全然関係ない話」や「よくわからない話」ばかりの打ち合わせを続けていくと、次第に打ち合わせの場に混沌とした雰囲気が漂う。しかし、そのような空気を察して、拡散をやめてはいけない。拡散のプロセスで最も大切なことは「混沌を恐れない」ということ。新しいアイデアは、混沌を突き抜けた先にある。
⑤拡散の前に「論点」を設定する
博報堂では、拡散することを「360度広げて考える」という言葉で表現することがある。アイデアを広げる作業は、円を描く作業に似ている。円には「中心点」と「円周」がある。中心点は「打ち合わせの論点」、円周は「アイデアの境界線」にあたる。この2つがきれいに描けると、参加者が自由にアイデアを広げやすく、収束もしやすくなる。
⑥アイデアに「境界線」を引く
先に「アイデアとして、どこまではアリで、どこからはナシか」を明確にすることで、アイデアを出しやすくする。想定外の発想が必要な時には、予算や時間という事情を取り払って「ギリギリどこまでできるのか?」を考えることが重要になる。境界線が明確になった状態で打ち合わせを重ねると、的外れなアイデアが減りつつ、かつ、いつもと違うアイデアが出やすくなる。
⑦「場の空気の読み合い」を取り除く
「オン・ザ・テーブル」は、博報堂の社員の口癖の1つである。拡散のプロセスの中に、考えうるアイデアはすべて出し切ろうという意味である。アイデアや意見を出し切ることを邪魔する要因に「場の空気の読み合い」がある。博報堂では、打ち合わせの最中に場を仕切っている人や上司、先輩などが、「言いたいことがあるけど、まだ言っていないという人は?」などと頻繁に声をかけるようにしている。
⑧打ち合わせはあえて曖昧に終わらせる
打ち合わせでは「何が決まって、何が決まらなかったのか」をあえて曖昧にしたまま終わらせることがよくある。その場で無理やり答えを導き出そうとせず、一度寝かせると、無意識の内にテーマに関連するインプットが頭の中で整理され、新たなアイデアが閃いたりすることがある。