量子超越 量子コンピュータが世界を変える

発刊
2024年12月25日
ページ数
416ページ
読了目安
597分
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量子コンピュータが応用できる様々な領域
実用的な量子コンピュータが登場した場合、医療やAI、核融合、人工光合成、宇宙の謎の解明など、様々な領域に活用できるとし、その可能性を紹介している一冊。

量子コンピュータの基礎となる「量子論」の解説から、現状の量子コンピュータの開発競争や課題、量子コンピュータの応用領域まで、量子コンピュータの現在と未来のことがまとめられています。
実現すれば、科学から経済、医療まで様々な領域に多大な影響を及ぼすと考えられている量子コンピュータを理解するのに役立ちます。

量子コンピュータの課題

量子超越性とは、量子コンピュータが特定のタスクの処理において従来のデジタル式スーパーコンピュータの性能を明確にしのぐ段階のことだ。まずGoogleが「シカモア」という量子コンピュータで、世界最速のスーパーコンピュータでも1万年かかるような数学的問題を200秒で解けることを明らかにした。量子コンピュータはデジタルコンピュータが無限の時間をかけても決して解けない問題に取り組めるのだ。

 

但し、現実世界の問題を解決できる実用的な量子コンピュータの登場は、まだだいぶ先になる。量子コンピュータが直面する問題は、リチャード・ファインマンが、その概念を初めて提示した時に予見していた。量子コンピュータがきちんと機能するためには、原子を正確に並べて振動を同期させなくてはならない。この条件を干渉性という。しかし、原子は非常に小さくて高感度の物体であるため、ほんのわずかな不純物や外乱でも、配列が干渉性を失い、計算のすべてがダメになる。この脆弱さが、量子コンピュータが直面する最大の問題だ。

 

外からの混入による汚染をできるだけなくすために、科学者は特別な装置を使って温度を絶対零度近くまで下げ、邪魔な振動を最低限に抑える。だが、それにはその温度に到達できるような効果で特別なポンプと管が必要になる。

ところが、自然は、常温で問題なく量子力学を利用している。例えば、光合成は量子のプロセスだが、常温で進行する。この謎を解き明かせたら、私たちは量子のみならず、生命そのものも自在に操れるようになるかもしれない。

 

量子コンピュータを活用できる領域

量子コンピュータが従来のデジタルコンピュータを凌駕できる領域はたくさんある。

 

①検索エンジン

量子コンピュータは、従来のデジタルコンピュータでは到底不可能な大量のデータをふるいにかけ、企業の財務を分析し、成長を阻んでいるいくつかの要因を見つけ出すこともできるだろう。

 

②最適化

無数のデータの要素について企業の利幅を最大限に増やす適切な組み合わせを見つけられるかもしれない。あるいは、量子コンピュータを使って、金融市場の将来を予測することも考えられる。

 

③シュミレーション

天候の予測、地球温暖化の影響、核融合装置における磁石の最適な配置、医薬品など化学的反応の原子レベルの予測など、デジタルコンピュータで解けない複雑な方程式を解くこともできそうである。

 

④AIと量子コンピュータの融合

AIと量子コンピュータの融合は、様々な問題を解決する能力を大いに高められる。

 

⑤スーパー電池

電池のために最高に効率の良いプロセスを見つけるべく、候補となる化学反応をシュミレーションできる。

 

⑥肥料生産の効率化

肥料による収量の増加や窒素固定プロセスの解明に量子コンピュータを使うことができる。この問題を解決できると、第二の緑の革命を起こし、世界の食糧難を救うことができるかもしれない。

 

⑦人工光合成

太陽光と二酸化炭素が酸素と糖に変換するというのは、量子力学のプロセスだ。量子コンピュータは、この仕組みを解き明かし、効率の良い人工光合成を実現し、太陽光のエネルギーを全く新しいやり方で捉えることができるかもしれない。

 

⑧量子医療

量子コンピュータは、無数にある薬の候補の効き目を一度に分析できるばかりか、病気の正体そのものを明らかにし、次世代の薬や治療法を生み出すだろう。

 

レースは始まっている

企業や政府はこのテクノロジーに何十億ドルも投資しており、それぞれの設計の選択が、誰がこのレースで勝つかを左右するかもしれない。

 

①超伝導量子コンピュータ

現在は、超伝導量子コンピュータが演算能力の基準となっている。大きな利点は、デジタルコンピュータ産業が開発した既存の技術を使えること。欠点は、マシンを絶対零度近くまで冷やすのに複雑なチューブとポンプが必要で、コストが上がり、新たにエラーが生じる可能性が出る。

 

②イオントラップ型量子コンピュータ

原子をほぼ真空状態で維持し、複雑に配置した電場と磁場で宙吊りにしてランダムな運動を吸収できるようにする。これにより、可干渉時間は超伝導量子コンピュータよりはるかに長くなり、高い温度で動作できる。しかし、スケールアップさせる場合、干渉性を維持するのに電場と磁場を絶えず調整し直す必要があり、複雑な作業を要する。

 

③光量子コンピュピュータ

光が様々な方向で振動しうるという性質を利用する。レーザービームをビームスプリッターという精巧に磨き上げられたガラスに45度の角度から照射。レーザービームは2つに分かれ、片方は真っ直ぐ、片方は反射する。2本のビームが干渉性を持ち、互いに同期して振動する。利点は常温で動作させられること。欠点は、たくさんの鏡とビームスプリッターが、広いスペースをとり、問題を解くたびに、解体し、配置を直す必要がある。