無自覚な脳の働きを自覚する
人類は、農耕や定住を始めることで、将来を予測できるという前提に立った組織や社会の仕組み「非VUCAを前提にした社会」を発展させてきた。この非VUCAな仮想世界と、「脳の省エネモード」の2つが同時期に組み合わさったことで生まれた「ものの見方」を「メカニックビュー」と呼ぶ。
「世の中は予測できる正解がある」という前提のメカニックビューには、効率と予測可能性を追求するあまり、「眼に見えるもの」「認識しやすいもの」「わかりやすいもの」に偏って認識し、反応するという特徴がある。
一方で「見えないもの」「認識しづらいもの」「わかりずらいもの」という氷山の水面下にあるものを扱う時には、想像力や創造力を発揮しながら探求するエネルギーと前のめりな主体的な姿勢が必要になる。この氷山の水面上下をともに扱える状態のものの見方を「ホリスティックビュー」と呼ぶ。
これからのVUCAの時代に求められるのは、無自覚にメカニックビューに偏重していた状態から、自覚的にメカニックビューを活用しながらホリスティックビューをベースにしていくことである。
脳の無自覚な7つの働き
脳には無自覚なまま、知らない内に発動するクセがある。その多くは「なるべくエネルギーを消耗しないようにしよう」と、カチコチ状態の方向に人を陥らせてしまう。
①みんな同じで、みんなそれぞれ違う
1人1人の脳の特性は非常に多様である。この脳の資質に対し、無自覚にメカニックビューのままでいると、「普通」という平均的な脳の働きの基準を勝手に思い描いてしまう。
②心や身体のエネルギーが不足すると健全に働かない
その時々の状態で、脳の働きは大きく変わる。エネルギーが落ちると、より省エネモードに固定化されてしまう。
③知らない間に省エネのための処理をする
「省エネモード」によって、脳の消費エネルギーを抑えた認知反応や処理として、あらゆるものが省略、ショートカットされる。その処理によって「ジャッジメンタル(レッテルを貼る)」や「バイアス(偏見)」が引き起こされる。
④主体性が持てるとパフォーマンスが高い
自分事に思えたり主体性を持てたりする事象に対しては、意識に上がることでパフォーマンスが変わる。より深く集中でき、創造性や責任感が高まるなどの要素が相まって驚くほどの能力を発揮できる。これは、省エネモードを自家発電モードに切り替えていく鍵となる。
⑤見立て、言葉・イメージやストーリーに駆動される
脳は、対象をどのような設定で認識するかである「ものの見方」「見立て」などに大きく左右され、それが身体や心に影響する。「それを何と見立てるか?」とものの見方を転換することで、全身の活動に変化をつくることができる。
⑥身体性、環境に連動する
姿勢や表情などの筋骨格系、食事や運動、睡眠などの生活習慣、物理的にどんな空間に身を置くかの環境などによって、脳の働きや関連した心身への影響を引き起こす。
⑦周囲と響き合う
脳には「ミラーニューロン」という神経細胞があり、他者の行動を見ているだけなのに、あたかも自分が行動しているかのように反応する。私たちの脳は、自分のことと相手のことを完全に切り分けて捉えることができず、自分と他人を混同し、周囲の人と響き合いながら、ときに同調する。
脳マネジメントの3ステップ
生産性や効率性ではなく、独自性や創造性を発揮するための脳マネジメントの基本となるのは、次の3つのステップである。
Step1:気づく
「無自覚の自覚」によって発動する脳のクセを理解し、自分の内側への解像度を高める。脳は幅広い領域を範疇とするため、いくつかのフレームを使って多様な種類(姿勢、表情、呼吸、感情、エネルギー、言葉、思考、環境など)の気づきを得ることが大切である。
- 「刺激と反応」モデル:自分がどんな刺激に対してどんな反応を引き起こしているかを観察する
- 「ABC理論」モデル:出来事と結果の間にある捉え方(解釈・前提)を自覚する
- ジャーナリング:頭に浮かんだことをそのまま紙に書いていく
- 「4方向モデル」:自分の状態に「前のめり」「後ずさり」「アップ」「ダウン」の方向を見出す
Step2:働きかける
自己理解を深めた上で、自分自身を望ましい状態に向ける適切な働きかけをしていく。「気づく」のステップで目を向けた領域に働きかけて変化をつくる。
- 言葉遣いを変える
- 姿勢を変える
- 呼吸を変える
- 表情を変える
- 見立てと設定を変える
Step3:体現する
より手放していくものを手放し、掴んでいくことを統合して体現していく。物事に主体性を持って現実創造していくため、オーセンティシティ(ならではの力)を発揮する。
- 自分の大切にしたいことを自覚化して「自分ならでは」を見つけていく
- 1つ1つ丁寧に意図を持った選択を重ねて「自分ならでは」を形づくる
- すべてを総動員して「自分ならでは」を自覚的に表現する