ビジネスと正面から向き合う過程でブランドは生まれる
スターバックスはブランドをつくろうとしたことはない。ただ、美味しいコーヒーに対する理解を得ようと、熱意をもって取り組んできただけだった。ブランドはたゆまぬ情熱から自然に生まれた。スターバックスは最高品質のコーヒー豆の調達とローストに必死だった。濃厚で力強いコーヒーを楽しむ方法を顧客に伝えるのに必死だった。
スターバックスが設立された頃、コーヒーは習慣的に消費する熱い焦げ茶色の液体で、カフェインを摂取できるものとしか思われていなかった。だが、微妙で深いエキゾチックな風味を持つコーヒーを、居心地よく落ち着ける環境で飲めるようにすれば、「日常のちょっとしたひととき」として受け入れられるかもしれない。当時の米国に、そういった店はなかった。
スターバックスは、コーヒーに対する知識を顧客に啓蒙することで成長していった。スターバックスは従業員をコーヒーエキスパートとして位置付けていて、彼らはまさに専門家だった。美味しいコーヒーを楽しみながらくつろぐという体験を提供した。
ブランドを最大限に活かせるようになるには、日々自分達のビジネスに忠実に向き合い、取り組み続けていかなければならない。
マーケティングはすべての社員の仕事の一部である
マーケティングは全社員の仕事の一部でもあり、企業の何もかもに関係する。スターバックスは、商品に対する情熱を1つ1つの活動に組み込むことで、マーケティングを企業そのものに「焼きつけ」た。これは最初から意図的にとられた戦略だったが、広告費が限られていたことが主な理由だった。そのため、店内での体験が、スターバックスのマーケティングの主力となった。
- 店舗での体験
細部へのこだわりがマーケティングになる。ドリンクの注文の仕方、トイレの清潔さ、ラテの泡状のミルクにかかったキャラメルのトッピングの形状など、どんな些細なことにも気を配ることがテレビCMよりもプラスの宣伝効果がある。 - お客様とのかかわり
テイスティングサービスは販売促進というよりも、商品を分かってもらうことが目的である。無料でコーヒーを提供することで、深煎りコーヒーに対する情熱、商品と商品をつくるスキルに対する誇りを分かち合っている。 - 地域とのかかわり
各店舗の地域で行われるチャリティ活動に協力し、スコーンやドーナツなどを寄付してチャリティの宣伝や売上に貢献。スターバックスの広告活動は、地域や個人に向けたものに限定されている。
「どこにでもあるもの」を「他にないもの」に変えよ
ブランドに対するロイヤルティが顧客に根付くと「どこにでもある」が「他にはない」に変わる。「他にはない」という特色は個人個人に根付くので、顧客を惹きつけて離さない。スターバックスはどこにでもある一杯のコーヒーを他にはないものにしている。豆の選定、時間をかけて深煎りにローストする工程、パッケージ、ドリンクそれぞれの入れ方にこだわり、そのおかげで濃密なファンを獲得した。
スターバックスは自分達がこだわる部分には、手間や時間やお金がいくらかかっても厭わない。これはお客様のスターバックス体験の質を下げたくないからである。この品質に対する妥協を許さない情熱が、他社をリードし、熱烈なファンの支持を得る所以なのである。
ありのままを伝えよ
スターバックスは自社製品について顧客を啓蒙することを長くやってきた。この活動が顧客からの絶大な支持につながっている。ハワード・シュルツは、スターバックスの人を惹きつけてやまない魅力はコーヒーに対する取り組み方にあると、早くから気がついていた。
スターバックスは、ケニアやインドネシア諸島のような遠く離れた国の、霧のかかった段々畑でコーヒー豆が手で積まれているという現実を気づかせた。この豆からカップ一杯のコーヒーになるまでのストーリーを、商品パッケージやパンフレット、店内ポスターに表示したり、コーヒーセミナーを開いて伝えた。
ブランドを広めたければ、まずカテゴリーを世に広めよ
顧客が実際に気に留めるのは、新しいブランドではなく新しいカテゴリーである。「新しい一番手」に関わりそうな人は、単に新しい商品ではなく、今までに経験したことのない体験を求めている。スペシャルティコーヒーというカテゴリーはまさにそれだった。
この新たな体験に魅力を感じるには、そのことについて知識がなければならない。カテゴリーのトップブランドを理解してもらうには、まずカテゴリーを理解してもらう必要がある。スペシャルティコーヒーというカテゴリーは、ほんの一部のコーヒー通以外の間では全く知られていなかったため、スターバックスは、次の3点を顧客に啓蒙することを使命とした。
- スペシャルティコーヒーというカテゴリーはどんなものか
- スペシャルティコーヒーの特長
- スペシャルティコーヒーが目指すこと