決して変わらないものに注目せよ
「変化」は驚きと興奮をもたらし、注目を集める。しかし「決して変わることのない」人間の行動パターンこそ、歴史の最も偉大な教訓だ。なぜなら、それは未来に起こりうることを前もって見せてくれるからだ。こうした「人間の行動パターンは変わらない」という考えはわかりやすいが、見落とされがちだ。そのため、この考えを理解すれば、自分の人生をより良く知ることができ、世界がなぜこうあるのかも理解できる。
アマゾンのジェフ・ベゾスはこう言う。
「今後10年で変わるものは何か」としばしば尋ねられるが、「今後10年で変わらないものは何か」と質問されることはほとんどない。だが、こちらの質問の方が実は重要だ。「決して変わることのないもの」が重要なのは、それを知ることで未来がどう形作られるか、確信が持てるからだ。アマゾンの顧客たちが低価格かつ迅速な配送を望まない未来を想像することはできない。
こうした考え方は、人生のほぼあらゆる場面で有効だろう。
世界は偶然に支配されている
歴史上、極めて重大な変化の内いくつかは、予期せぬランダムな巡り合わせや決断によって引き起こされ、奇跡や大混乱を招いてきた。ほんの些細なことが、もし別の方向に進んでいたとしたら、どんな重大な歴史上の出来事も違った結末を迎えていたかもしれない。
世界の大半は、それほど危うく脆い。たとえこれまでの道筋を知ったとしても、これから向かう先がわかるわけではないと認める方が、より現実的である。出来事とは、私たちに到底理解しえない方法で複雑に組み合わさっているからだ。
偶然やアクシデントに影響を受けやすいこの世界で、次の2つのことを心にとどめておくことだ。
- 特定の出来事ではなく、人々の行動に基づいて予測すること
- より広範な想像力を持つこと
予想できないからこそリスクが生まれる
リスクとは、あらゆる可能性を想定し尽くしたと思った後に残っているものだ。つまり、リスクとは予想できないもののことだ。想像が及ばないことこそ危険なのであり、リスクを決して克服できないのはそのためである。それは今後も同じだ。世の中で起こっていることに対する人間の視野がいかに狭いかという事実を受け入れる必要がある。
「リスクは予想できない」に対して、できることはあまりない。想像できないものについて計画を立てるのは不可能だし、あらゆることを想定したと思えば思うほど、考えもしなかったことが起こった時のショックは大きくなる。考えるべきは次の2つだ。
- どんなリスクがあるか予測するのではなく、備えることに投資する
- 想定できるリスクに備えるばかりで、想定できないリスクへの備えはできていない事実に気づく
幸せは期待に左右される
富が増え、生活の質が向上すると、人々の期待は高まる。すると、周囲の人に負けまいとさらに恩恵に期待する。人は周りにいる人々と比較して自分の幸福度を測る。そのため世の中が良くなっても、その分だけ幸せになるわけではない。
幸せは、何よりも期待の大きさにかかっている。だから、期待を大きくしすぎないことこそ、生きる上で重要なスキルとなる。期待のしかた次第で、現在の状況に対する解釈は驚くほど変わってくる。
人は収入、スキル、未来を予測する能力を向上させようと懸命に努力する。一方で、何にどれくらい期待するかということには、ほとんど注意を払わない。状況を変えたいと必死になるにもかかわらず、自分の期待を制御しようとは考えもしないのだ。認識すべきは次の2つだ。
- 富と幸福には、既に手に入れているものと、期待しているものがあることを常に心にとどめ、等しく重要だと認識する
- 期待値は環境をどうにかするよりも、自分の意識でコントロールできることが多いので、無視しない
進歩には楽観と悲観の両方が必要である
悲観は、楽観よりも知的に見えて、注目を集めやすい。悲観的に捉えることは、事前にリスクに備えることにつながるため、生きる上で不可欠である。とは言え、楽観も同じくらい欠かせない。たとえ根拠が曖昧でも、物事はきっとよくなる、今以上に良くなるだろうと信じることは、良好な人間関係の維持から長期投資まで、ありとあらゆることに欠かせない。
楽観と悲観、人はどちらか一方を選びがちだ。だが、この2つのバランスの取り方を知ることは、人生で重要なスキルである。最良なのは、悲観主義者のように貯蓄しながら、楽観主義者のように投資することだ。これから先の道のりには挫折、失望がいくつも待っている現実と、物事はきっと良くなると信じる気持ちとを調和させれば強大な力になる。
長い目で見れば大抵はうまくいくが、目先のことだけ見ていると大抵はうまくいかない。悲観と楽観を両立させ、相反するように見えるスキルをうまくコントロールする方法を学ぶには努力が必要だ。