Overall Optimization

発刊
2024年10月30日
ページ数
232ページ
読了目安
213分
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推薦者

データドリブン経営の事例
SAPジャパンに所属する著者が、ERP導入事例による組織の全体最適や、データを中心としたDX化プロジェクトの事例を紹介している一冊。
日本企業にありがちな個別最適ではなく、データを中心とした全体最適化を図ることで、組織改革やサービス、製品の新しい創出が可能になるとし、そのために必要なことは何かが書かれています。

歴史的経路依存症からの脱却が必要

労働生産性は、次の2種類に分かれる。

・物的労働生産性:いかに効率的に働くか
・付加価値労働生産性:働いた時間でどれだけ付加価値を生んだか

物的労働生産性については、日本は2000年から今に至るまで右肩上がりで、未だに世界上位を維持している。一方で付加価値労働生産性は、ほとんど上がっていない。

 

過去の制度や仕組みに縛られてしまう現象を、歴史的経路依存症と呼ぶ。高度成長期の時代は、安い人件費とコスト削減で、日本企業は勝ち上がったが、今もその発想で経営しているならば、歴史的経路依存症に陥っていると言える。過去に縛られた働き方ではなく、人口減少やすべてのステークホルダーの幸福を考えて経営するといった未来に目を向けた働き方をする必要がある。

このような経営の大規模な方向転換を行うには、経営陣の率先垂範が必要である。そして、既存の延長線上で考えるのではなく、経営の発想法や世界観を転換させる。現場も経営陣も「リーダーは答えを知らない」「正解はない」という発想法を持ち、市場を白地図だと思って、明日の市場を探すことが必要である。

 

こうした経営においては、データは財産であり、顧客や組織に瞬間的にデータを届けることで、戦い方が変わる。今まで自社のサービスや製品を売っていた企業が、顧客の片づけたい仕事を解決できる情報を想定外の業務で入手することがある。その情報こそ、新しいビジネスモデルを作る源泉であり、他社や顧客が求めているものかもしれない。

組織文化とテクノロジーを再構築し、自社の果たす役割を完全に作り変えることが、デジタルトランスフォーメーションである。まだ日本には、過去をアンラーンし、新たな発想で経営している企業はあまりない。

 

個別最適を組み合わせても全体最適にはならない

日本の文化は、権力への指向性はほどほど、集団主義でも個人主義でもなく、達成することにひたむきで、不確実性を排除し、長期的思考で、人生を楽しむ度合いはほどほどである。特に、達成・成功へのモチベーションと、不確実性の回避、長期的思考の点数の高さは、日本の特徴である。日本的経営の終身雇用や年功序列は、こうした文化が背景にあると考えられる。

日本企業にとっての課題は、集団と個人のどっちつかずのため、全体最適指向にできていない点と、組織文化を新しい時代にまだ変えられていない点にある。

 

組織には個々に目標となる管理指標があり、その目標を達成するように活動している。一方、部門間でトレードオフの関係にある管理指標のバランスをどうとればいいのか、多くの企業がわからない状態で経営している。本来、企業の中の部門はすべて、経営戦略や経営目標のために活動している。ところが、部門という単位に落とし込んだとたん、自部門に与えられた目標を重視するあまり、会社全体にとって損か得かという全体最適の視点を失ってしまう。

どの従業員にとっても自社の成長は歓迎すべきことで、昇給や雇用の確保という観点で自分ごとである。しかし部門に入ってしまうと、個別最適を優先し、全体最適については思考停止してしまう。多くの企業がこのジレンマに陥っている。

 

これまで日本企業が進めてきた個別最適は、その部門の効率のみを追求した部門運営方針だった。しかし、個別最適を組み合わせても全体最適にはならない。だから最初からバックオフィス業務を一元化し、全体最適を作るのが、ERPという経営手法である。

バックオフィスの業務が一元化されれば、組織間のコミュニケーションパスがシンプルになる。どの部門も同じ器の中にいるので、同じものを同じ尺度で見ればよくなるからである。これはフロントオフィスも同様で、顧客とのつながりが一元化できれば、商談管理で販売の着地点を予測できるし、顧客へのマーケティングや購買行動の統合把握などで、より良い顧客体験を与えられる。

顧客の片づけたい仕事を教えてくれるのはフロントオフィスで、製品やサービス提供を支えているのがバックオフィスである。この2つは車の両輪のように大切で、投資し、高度化させていく必要がある。