エフォートレスな行動で、能力を最大化する 「無為」の技法 Not Doing

発刊
2020年3月5日
ページ数
360ページ
読了目安
462分
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あえて「しない」という選択肢を考える
忙しく行動することだけでは、燃え尽きてしまう。あえて「しない」という選択肢をとることの大切さを説く一冊。一時停止、スローダウン、一歩下がる、振り返るなどの価値を紹介しています。

「しない」という選択

現代社会の複雑さや不確実さと折り合っていくのは難しい。私たちは不安定な潮に揺られている。波に乗れずにもがき、押しのけ、抵抗し、何とかねじ伏せようと苦戦していると、へとへとになって心身の健康を壊してしまう。生活のあらゆる面にマイナスの影響が生じてくる。

波が私たちを翻弄し疲弊させる時、誰でも岸壁にしがみつきたくなる。しかし、私たちに必要なのは、岸にしがみつこうとする手を放し、取り巻く世界の自然なエネルギーに乗ってみることだ。学び、そして成長していくために、海の潮に、川の流れに、その動きに身を任せてみる。エネルギーを受け入れ、リードに従ってみる。これを「しない(Not Doing」と呼ぶ。

「しない」というのは、不安や無気力、決断力のなさから生じる行動の欠如ではない。「しない」というのは、物事をやりこなす方法を狭い視野で見ないための防御手段だ。押すことでもなければ引くことでもない。逆らわず、ゆだねて、共に歩いてみる。そうすること力みがとれ、自分が関わっている状況に対して意識が開く。

流れに任せる

しないよりする方がいいに決まっているという発想は、現代ではもはや成り立たない。しないでいるためには、自分は他者の力が作用する世界にいる、ということを理解する必要がある。私たちは取り巻く環境と関わり、乗っかり、後押しを受けて暮らしている。必要なのは身構えず、無理に押し通そうとせず、エフォートレスに受け入れていくことではないか。

しないというのは、複雑でダイナミックで相互に結びついたシステムの中で、その流動的なプロセスに向き合うことだ。私たちがどんな風に生き、周囲の世界や人々とどんな風に関わっているか、そこに意識を向けられるなら、生命のエネルギーと足並みを揃えられる。

逆潮に押されて苦しくなった時、自分の胸に問いかけてみること。自分は何を目指しているのか、今の状態は自然なのか。潮に逆らうのをやめてみたら、新しい選択肢が浮かび上がってくるかもしれない。

「ない」を受容する力

「ある」を追求する力(ポジティブ・ケイパビリティ)は、活動や努力や達成を通じて知を表明する知識や技術や競争の力を指す。「ない」を受容する力(ネガティブ・ケイパビリティ)の方は、知らないことやしないことを尊重する「待つ」「耐える」「観察する」「耳を傾ける」といった能力を指す。

人が仕事をしていくにあたっては、ポジティブ・ケイパビリティとネガティブ・ケイパビリティの両方が必要だ。「ある」ことの追求だけに重きをおきすぎると、行動することに執着しやすい。「ない」ことの受容だけを考えていると、人任せで空疎に終わってしまうかもしれない。どちらが良いとか、どちらが優れているとかという訳ではない。単に行動をするかしないかということではない。「しない」の対極にあるのは、流れに逆らい自分の意思も殺した拙速な行動や強迫観念的な行動に走ることだ。

ポジティブ・ケイパビリティとネガティブ・ケイパビリティの組み合わせが、確実と不確実の境目で働くための創造的度量(クリエイティブ・ケイパビリティ)を生む。

現代人は業績や成果、効率に対する多大なプレッシャーを感じている。辛抱強く待つこと、一時停止してみること、スローダウンすること、振り返って内省してみる時間をとること、新しいアイデアを呼び込む余白をつくること、試練の中の人間的要素を重視すること。こうした要素は、クリエイティブキャパシティを育てていくためには必要である。

クリエイティブキャパシティは境目に存在する。勝手気ままな行動から、強制された仕事へグラデーションしていく、その微妙な境目。「全く何もしない」から「しすぎる」までの移り変わりの境目。一歩下がり、動作を停止して全体を眺め、素材を集め、並べ、組み立て、織り込む。流れに任せ、取り囲む世界とまっすぐに向き合って手を結ぶ。