アットコスメのつぶれない話

発刊
2024年8月21日
ページ数
224ページ
読了目安
235分
推薦ポイント 6P
Amazonで購入する

Amazonで購入する

化粧品クチコミサイト「@cosme」の経営ストーリー
1999年というインターネット黎明期に、化粧品のクチコミサイト「@cosme」を立ち上げた経緯や、その後の事業の紆余曲折が語られている一冊。

「@cosme」事業を運営してきた25年の中で、大変だった10のエピソードが紹介されており、ベンチャー経営における様々な教訓が得られます。特にベンチャー経営において最も大切な「サバイブする力」とはどのようなものなのかが、実際の経営の話を通じて、感じることができます。

誰も見たことのないサービスをつくる

化粧品クチコミ・評価サイト「@cosme」を立ち上げたのは1999年12月。日本のインターネット業界は黎明期で、当時流行っていたITサービスはniftyの掲示板。TwitterやFacebookはもちろん、mixiでさえ誕生していない頃だ。そんな時代にクチコミを前面に出した評価サイトを立ち上げて、3年で20万人を超えるユーザーを集めた。

 

アイスタイルは、化粧品会社に勤めていた山田メユミと一緒に立ち上げた会社である。山田は、化粧品メーカーの商品開発部で働いていた。当時「化粧品を使っている生活者の顔がなかなか見えない」と言っていた。そこで手始めに山田は「週刊コスメ通信」というタイトルでメルマガ配信をスタートした。配信前のメルマガの告知には約570人の購読者がついた。化粧品とインターネットの組み合わせにものすごい可能性があると直感した。

同じ頃、ドメインの空き具合をチェックして遊んでいたところ「cosme.net」というドメインが空いていた。「cosme.net」というドメインを使って、日本中の化粧品の情報を集約し、そのデータを活用してマーケティングや販売戦略の提案をする。まだ誰も始めていない、しかもユーザーが潜在的に強く求めているサービスをつくるチャンスだ。

当時の山田も「週刊コスメ通信」を発信しながら読者の反応に可能性を感じていた。読者の声をみんなでつくる、みんなのためのコスメガイドとして、多くの人に届けられないか。そうすれば、女性たちにとっても化粧品メーカーにとっても価値のあるデータベースになるはず。「@cosme」のビジネスモデルの中核は、この時にできあがっていた。

 

当時、気にしていたのは、いつまでに売上高を達成するかという計画よりも、「@cosme」をいかに使いやすいものにするかだった。サービスは最初の「型づくり」が命である。新しいプロダクトをつくる時に最も神経を使うべきなのは「文脈」の設計だ。ここがどんな場所で何ができて、どんな行動が良しとされるのか。世界観を統一して、文化をつくっていく。ユーザーにわかりやすい文脈を示せば、ユーザーは安心してその文脈に乗ってくれる。

 

過去最大のピンチ

コロナ禍の時期は、過去25年の中で一番ギリギリで、最も倒産に近づいた瞬間だった。2020年初頭まで、アイスタイルは積極的な投資による拡大路線を進めていた。「@cosme」のデータベースの価値を生かすプラットフォーム戦略に舵を切り、ネットとリアルが融合した強みを武器に事業を展開し、海外でM&Aを進めていた。海外の連結子会社は7カ国9社に増え、実店舗は12店まで成長していた。

国内では2020年1月、原宿の一等地に旗艦店「@cosme TOKYO」がオープンした。売り場面積400坪超のアジア最大の化粧品専門店である。そんな矢先にコロナショックによる逆回転が始まった。

 

世界中の店舗が完全に止まった。化粧品業界全体が急激に冷え込み、「@cosme」に出稿していたクライアントも広告そのものを控えていく。事態は長期化し、一気にキャッシュフローが悪化した。

海外事業の価値が目減りし、会社の資産が縮小すれば、銀行が貸し出せる金額も小さくなる。状況次第では融資が止まり、会社が潰れてしまう。これまで「@cosme」を主体とした事業が利益を生み出していたが、これが赤字になると海外事業の赤字が重なる。

最初にすべきことは、赤字の縮小しかなかった。子会社化して間もない海外企業などもすぐさま売却し、とにかく手を引けるところから次々に撤退していった。

 

2020年12月時点の有利子負債は114億円に達していた。2020年6月期には50億円を超える赤字となり、合わせて資本も増強しなくてはいけない。銀行の返済がある2022年の年末までに資金調達を間に合わせる必要があった。

コロナ禍を抜け出すきっかけとなったのは、過去何度もやめろと言われたリアル店舗とネット通販の2つの事業だった。両方の販売チャネルを持っていたからこそ、「@cosme」の広告事業でも、立体的なマーケティング施策をクライアントに提案することができるようになった。

こうして少しだけ危機を乗り越える糸口が見えたタイミングで、Amazon、三井物産との業務資本提携が決まり、アイスタイルは一気に浮上することができた。

 

経営とは何か。それは「サバイブする力」ではないか。負けずに生き延びることが最も重要である。「生き延びる」とは、会社を無理に存続させることではなく、信念を貫き事業を成長させ続けるために「死なせない」という覚悟である。

会社やサービスがつぶれるかどうかは、本当にちょっとした選択の差で決まる。でも、絶対につぶさない。こうした決意を起点に考え抜けば、絶対に何かが見えてくる。答えは自分でつくるしかない。