「怠惰」なんて存在しない 終わりなき生産性競争から抜け出すための幸福論

発刊
2024年5月24日
ページ数
350ページ
読了目安
499分
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頑張らないことのススメ
当たり前のように浸透している怠け者を嫌う文化によって、私たちは「頑張らなければならない」というプレッシャーを受け続けている。そして、ストレスを抱え、心身ともに疲れている。

こうした「怠惰」を嫌う文化的背景を解説し、終わりなき生産性競争から逃れることこそが、豊かに生きることにつながると説いています。頑張らないことに罪悪感すら持ってしまう現代人に対して、その考え方から一歩距離を置くヒントが書かれています。

怠惰のウソ

「怠惰のウソ」は深く文化に根ざした価値体系で、次のことを私たちに信じ込ませている。

  • 表向きはどうあれ、本質的に自分は怠惰で無価値だ
  • 怠惰な自分を克服するために、いつも一生懸命頑張らなくてはいけない
  • 自分の価値は生産性で決まる
  • 仕事は人生の中心だ
  • 途中でやめてしまうこと、頑張らないことは不道徳だ

 

「自分は頑張りが足りていない」と罪悪感が湧くのは「怠惰のウソ」が原因だ。身体を壊すまで働きすぎるのも「怠惰のウソ」に突き動かされているからだ。

 

「怠け者」呼ばわりされる人は実際には困難を抱えている

「怠惰」という言葉は、大体いつも、道徳的な非難の意味合いで使われる。誰かを「怠け者」呼ばわりする場合、それは単なるエネルギー不足ではなく、「その人自身に大きな問題や欠陥があるのだから、何が起ころうと個人の責任だ」というニュアンスを伴う。

しかし、世間から「本人の努力が足りない」と蔑まれている人は、ほとんどの場合、他者からは見えない障壁や困難と懸命に闘っている。不安障害や貧困、病児のケアや介護などで困難な状態にあっても、人の苦しみは大抵、外部からは見えない。

 

私たちは、怠惰について誤った信念を植え付けられてきた。現代の文化では、強い意志や根性さえあれば誰でも成功できるとされ、限界まで自分を追い込むのが美徳で、気楽にやるより価値が高いとされている。この「怠惰のウソ」を乗り越えるためには、まず「怠惰のウソ」と向き合い、それを理解する必要がある。

 

「怠惰のウソ」の3原則

「怠惰のウソ」には、次の3原則がある。

 

①人の価値は生産性で測られる

仕事を中心に回っている世界では、働かずにいると社会的に孤立し、心身の健康が悪化しやすい。生産性を失えば悲惨なことになる。そうして、多くの人が将来の経済状態や仕事について常にストレスを抱えている。どれだけ働けるかが、とにかく不安なのだ。

 

②自分の限界を疑え

「怠けて何も成し遂げられずに終わるリスクは誰にでもある、だから弱さの兆候が出ていないか常に自分を疑え」と「怠惰のウソ」は言う。このせいで多くの人が、自分のやる気や能力は見せかけに過ぎず、本当はダメ人間だと思い込んでいる。

 

③もっとできることはあるはずだ

「怠惰のウソ」は現実離れした生産性を追求するよう焚き付けてくる。やるべきことをやれと際限なく言い続ける。いくら頑張っても、天井には届かない。そもそも天井など存在しないのだ。目標地点を永遠に動かし続けて、人の弱さや欲求を許容することはない。

 

私たちは、長い時間をかけて、観察とパターン認識の中で徐々に「怠惰のウソ」の思考を吸収していく。「怠惰のウソ」は私たちの文化や価値観に浸透し切っているため、当然のこととして、疑問視もされない。

 

怠惰なんて存在しない

「怠惰」だと見なされる行為は、実際には自己防衛本能の強い表れだ。やる気が出ない、目標が定まらないといった「怠惰」な状態になるのは、心や身体が安静や静謐を求めて悲鳴を上げているからだ。人がエネルギー切れやモチベーション不足になるのは、ちゃんと理由がある。

生産性や燃え尽き症候群に関する実証研究によると、人間の仕事量には上限がある。そして、この限界は思っているよりずっと少ない。例えば、週40時間労働は、大半の人には長すぎて負担が大きい。

 

私たちは怠惰であることを恐れるよう教えられてきたが、そんな「怠惰」はそもそも存在しない。道徳的に退廃した怠け心が内在するわけでもないし、人が理由もなしに非生産的になるわけでもない。意欲の低下や疲労感は自尊心を削る脅威ではない。むしろ、「怠惰」だと揉み消されるような感情こそが、人間として重要な感覚であり、長期的に見れば、私たちが豊かに生きるために必須である。

 

何もしない時間を意識的に作って、自然に湧き出る怠惰な感情を無理せず大切に受け止めるようにすれば、自分にとって何が重要で、何を断るべきか、わかってくるはずだ。何もせず怠惰な時間を作り、そこでの気づきや反応を見極めた方が効率は良くなる。「怠惰は敵だ」という思い込みをやめれば、タスクを手放すことにも罪悪感はなくなるはずだ。

何もしない「怠惰」で非生産的な時間を大切にすると、人生の質が激的に変わる。タスクをいくつ処理できたか、その数で自分の価値を測っている限り、自分にとって本当に大切なことには気づけない。社会からの「やるべき」というプレッシャーではなく、本当の気持ちに従って優先順位を決めれば、より自分らしく生きられる。

 

本気で「怠惰のウソ」を解体して自由になりたいなら、社会に教え込まれてきた「怠惰」への偏見をすべて疑うことだ。好奇心を働かせることは、思い込みや偏見をなくすのに効果的だと実証されている。独善的に「怠惰」のレッテルを貼らず、相手の状況を理解できれば、それだけ、一見、ダメに見える点にも共感しやすくなる。