キャリアは「アップ」ではなく「フィット」で考える
人材会社や転職エージェントなどの人材業界からの発信で目につくには、「キャリアアップ」という言葉である。そこには「キャリアはアップするものである」という不文律がある。
しかし、世に出ている「キャリアアップ」を前提にしたキャリアの話の多くは、基本的にはいわゆる「キャリア組」のように、順風満帆に人生を歩んでいる人たちの話がベースになっている。しかし、社会には常に上げ調子のキャリアを歩んでいる人ばかりではない。大手企業に入って出世したり、年収を上げたりすることだけがキャリアではない。どんなキャリアを歩みたいかは人それぞれである。
まず「キャリアはアップするものだ」という固定観念自体を捨てること。キャリアアップではなく「もう少し快適に働ける環境に行きたい」というように、転職や異動の理由は、人それぞれなはずである。その時々の自分に適うキャリアを歩んでいくことが、現代における適職のルールである。キャリアは、その人がその時々で自分に適している環境や場所、ポジションを選んで動いていくものと考えれば、アップもダウンもない。自分に適しているかどうか、「フィット」の感覚があるかどうかである。
キャリアフィット=強み×場所
無理を重ねて疲弊しないように、「得意である」ということは、キャリアの重要な軸である。無理なくできることから仕事を考えてみる。キャリアを考えてみる。これが、キャリアフィットのあり方である。
適職を考える「キャリアフィット」の考え方は、自分の「強み」をよく理解して、その「強み」を活かせる「場所」を探していく、ということに集約される。
自分の「強み」とは絶対的な価値ではなく、あくまでも周囲との比較によって決まる相対的な価値である。たとえ些細な強みであっても、その人がどんな場所・環境にいるかで、それが強く見えたり、弱く見えたりする。そのため、「強み」は「場所」と掛け合わせることで初めて意味を持つ。常に自分の「強み」を「場所」との掛け算で考えることが大切である。
「行きたい場所」よりも「結果を出せる場所」へ
多くの人が自分の強みばかり鍛えて伸ばすことに力を注ぐ割に、その強みを「どこ」で活かすのか、自分の強みが活きる「場所」について意識していない。人材のマーケットを含めて、自分の強みが活きる場所についてもきちんと把握する必要がある。
場所への認識を高めるための第一歩は、まず自分の強みを知ることと同時に、他者から自分がどう見られているのか、その見え方を同じように理解することである。他者からの評価が高い場所に行けば、自分の強みを活かすチャンスが多い。
場所を選ぶ時は、ただ「行きたい」「やりたい」という漠然としたイメージだけでなく、自分の強みが何かを理解し、かつその強みの適した場所なのか、そうではない場所なのか、もっと解像度を上げて、考える必要がある。
「カルチャーの合う場所」を選ぶ
場所の選び方は、その人が自分のキャリアに何を求めているかに応じて、何を優先するかは人それぞれである。自分に適した場所を選ぶ際に注意したいのが、その職場の「カルチャー」を見極めることである。たとえ自分に仕事をこなすスキルがあったとしても、その場所の「カルチャー」が自分の特定と合っていなければ、仕事もやりづらくなってしまう。
カルチャーは、転職においては就職前には分かりづらいかもしれない。そういう意味では、まずは転職よりも社内の異動を視野に入れて、自分が行きたい場所を考えるのも1つの選択肢である。
強み=スキル+能力+特性
自分に適した場所を見つけるためには、自分の「強み」が何なのか、きちんと理解していなければならない。強みについても、曖昧なまま放置するのではなく、解像度を上げて、より具体的に見ていく必要がある。
強みとは、次の3つに分かれる。
①スキル
経験を通じてできるようになったこと。経験があるだけでなく、自前でできることであり、どこに行っても再現できること。
②能力
経験をスキルに変えるために必要な力。能力の違いによって、自分が得意とするスキルも変わってくる。能力は大きく分けて「対人力」「対自分力」「対課題力」の3つからなる。
③特性
努力しなくてもできること。その人に備わっている特徴や傾向のようなもの。能力を支える土台となっているものが、その人の先天的な特質である特性である。性格的な要素が色濃く、無理に矯正するよりも、うまく付き合っていく方が合理的。
自分の強みを知る際には、他人からの評価もきちんと判断の材料にして考える必要がある。無理に弱みを改善することに労力を注ぐことよりも、いかに強みを活かすかを考える方が効率的で、成果を出しやすい。