なぜ働いていると本が読めなくなるのか

発刊
2024年4月17日
ページ数
288ページ
読了目安
326分
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仕事と読書のあり方を考えさせる本
仕事をしていると読書をする時間が取れないという人は多い。では、これまでの日本人は仕事と読書を両立できていたのか。
労働と読書の歴史をさかのぼり、日本人はこれまでどのような本を読んでいたのかを解説しながら、現代においては、なぜ働きながら読書をするのが困難なのかが分析されています。

そもそも本も読めない働き方とはどうなのかという問題提起から始まり、どのようにすれば仕事と読書を両立させられるのか、読書とは何なのかを考えさせられます。

労働のために読書が必要な時代は本が読めた

日本の働き方は、本なんてじっくり読めなくなるのが普通で、マジョリティである。週5日はほぼ出社して、残りの時間で生活や人間関係を築いていたら、本を読む時間なんてなくなる。現代の労働は、労働以外の時間を犠牲にすることで成立している。だからこそ、今を生きる多くの人は、労働と文化的生活の両立が難しい。

 

それではこれまで働く日本人は、労働と読書を両立できていたのか。そもそも日本人の近代的な読書習慣は、明治以降に始まった。明治から戦後の社会では立身出世という成功に必要なのは、教養や勉強といった社会に関する知識とされていた。1980年代以前に長時間労働に従事する人々が本や雑誌を読めていたのは、それが労働や社会的地位上昇の役に立つ「知識」を得る媒体だったからだ。

しかし、1990年代以降、労働や成功に必要なものは、自分に関係のある情報を探し、それをもとに行動することとされた。そのため自分にとって不必要な情報がノイズとして入ってくる読書は、働いていると遠ざけられることになった。

 

私たちは働いていると本が読めない

読書とは「文脈」の中で紡ぐものだ。例えば、書店に行くと、その時気になっていることによって、目につく本が変わる。読みたい本を選ぶことは、自分の気になる「文脈」を取り入れることでもある。

 

本を読むと他者の文脈に触れることができる。自分から遠く離れた文脈に触れることが読書である。そして、本が読めない状況とは、新しい文脈をつくる余裕がないということだ。自分から離れたところにある文脈をノイズだと思ってしまう。そのノイズを頭に入れる余裕がない。自分に関係のあるものばかり求めてしまう。それは、余裕のなさゆえである。

 

新しい文脈を知ろうとする余裕がない時、私たちは知りたい情報だけを知りたくなる。未知というノイズを受け入れる余裕がなくなる。それは新しい交友関係を広げるのに疲れた時に似ている。未知の他者と会って仲良くなるには、自分に余裕がないといけない。それは仕事の文脈しか頭に入ってこない時に、新しい分野の本への感受性を失っている体験によく似ている。

 

仕事への全身コミットから脱却せよ

今後、80年代以前のような「労働のために読書が必要な時代」はもうやってこないだろう。それでは、現代において労働に関係しない文化的な時間を楽しむことは、諦めなくてはいけないのか。

 

私たちは自ら仕事を頑張ろうとしてしまう社会に生きている。仕事で自己実現を果たしている人が、キラキラしているように見えてしまう。しかし、一度仕事を頑張ろうとすると、仕事は「全身」のコミットメントを求める。仕事はできる限り仕事に時間を費やすことを求めてくる。私たちは、生活のあらゆる側面が仕事に変容する「トータル・ワーク社会」に生きていること、だからこそ本を読む気力が奪われてしまうことを、まず自覚すべきではないか。

 

常に、資本主義は「全身」を求める。そして、私たちは時間を奪い合われている。しかし、本も読めない働き方、つまり全身のコミットメントは危うい。なぜなら全身のコミットメントが長期化すれば、そこに待っているのは、うつ病であるからだ。過剰な自己搾取はどこかでメンタルヘルスを壊す。

 

1つの文脈に全身でコミットメントすることを称揚するのは、そろそろやめてもいいのではないか。半身のコミットメントこそが、「働きながら本を読める社会」をつくる。働き方だけではなく、様々な分野において「半身」を取り入れるべきだ。「半身」とは、様々な文脈に身を委ねることである。読書が他者の文脈を取り入れることだとすれば、「半身」は読書を続けるコツそのものである。

 

働きながら本を読むコツ

①自分と趣味の合う読書アカウントをSNSでフォローする

働いていると「次に読みたい本」が見つからなくなる、ということが重大な危機である。まずは読みたい本を見つけるために、定期的に面白そうな本の情報を呟いているアカウントを追いかける。

 

②iPadを買う

iPadは寝転がっても、立ちっぱなしの電車の中でも、どんな体勢でも読みやすい。紙の本より、隙間時間で読むことに適している媒体がiPadである。

 

③帰宅途中のカフェ読書を習慣にする

とにかく何かを飲んだり食べたりしながらゆっくり本を読むことは癒される。店に寄ることで、ここにいる間は読書の時間と決めてしまって、趣味の時間と区切る。

 

④書店へ行く

なんだかんだ書店に行くと本を読みたい気分になる。

 

⑤今まで読まなかったジャンルに手を出す

働き出して環境が変わった時、実はそれまで読んでいた本に飽きているだけかもしれない。書店でいろんなジャンルの棚を眺めてみる。

 

⑥無理をしない

本が読めなくなった時は、「一時的に疲れているのかもしれない。今は休もう」と思うことは重要である。