台湾式EQ
台湾式EQとは、「双方よし」を実現しながら、物事により良く対処するために自分の感情をコントロールできる能力である。これこそが、今のリーダーに必要なEQである。
日本で知られているEQは、1995年に米国の心理学者ダニエル・ゴールマンによって提唱されたものがベースになっている。ただ、米国発のEQ理論と台湾で定着しているEQとは、また別の概念のようである。台湾式EQとは、台湾の多民族社会においてローカライズされた独自の概念であり、この台湾式が、同じ東アジアに位置する日本にもしっくりくると考えられる。
台湾では、職場でもプライベートでもEQというキーワードが頻出する。台湾人はEQという言葉を借りて、台湾文化における「人和(人々が和やかな関係にあること)」の観念を説明している。台湾人は人に何か説明する際、「人和為貴(和をもって尊しとなすといった意味)」という概念を強調することで、できるだけお互いの関係を損なわないように努める。また、役人を賞賛する時によく「政通人和」という言葉を使うが、これは仕事ができる上に人間関係も築くことができるという表現である。「人和」とは、台湾の文化において基礎となっている価値観である。
台湾には以前からEQの概念があったわけではなく、ダニエル・ゴールマン氏の著書の台湾翻訳版をきっかけに、この概念が広がった。台湾でEQが大切にされる背景には、台湾には元々、儒教の考え方が根付いているからである。「五常(仁・義・礼・智・信)」といった礼儀を備え、「五倫(君子、父子、夫婦、兄弟、友人)」という基本的な人間関係をしっかり構築することによって衝突を避け、結果的に国家や組織が安定するという儒教の道徳観そのものは、EQの概念とマッチする。
台湾では「做人」が非常に大切にされている。「做人」とは、台湾華語で「相手のことをよく考える、親切な人」といった意味で、台湾には「做人做事更重要(何かを成し遂げるより、人を大切にする方が重要だ)」という概念が存在する。「做人」とEQは非常に密接な関係があるので、台湾人はEQを重視する。
台湾式EQを構成する要素
台湾式EQは、以下の方程式で表される。
「換位思考(異なる相手を理解する知的能力)」+「自分を曲げず、それでいてみんなとより良くやっていく方法」で行動できる
台湾式EQは、以下の5つの要素で構成される。
①情動の自己認識
②情動の管理
③情動の建設的活用
④共感:情動の読み取り
⑤人間関係の処理
EQが高い人の特徴
台湾で「EQが高い人」と言うと、空気を読めるだけでなく、「どう反応すれば良いのかも理解している」といったニュアンスがある。空気を読んだ後で、ただそのまま相手に合わせるのではなく、相手を否定せず、相手を尊重しながら自分の考えを率直にに伝えることができる。空気を読んで相手の気持ちを察したり、意見の異なる相手を否定しないけれど、自分の気持ちを押し込めずにいられることが大事になる。
①情動が安定している
ネガティブな感情を抱いても、その感情に引っ張られることがないので、台湾で言うところの「理知線が切れる(ブチ切れる)」ことがない。
②オープンマインドでフラット
オープンでおおらかな見方で人と接する。
③モチベーションの管理ができる
自分が向き合っているのは自分自身がやりたいと思って決めたことであり、他人からこうすべきなどと言われてやっているのではない。
④バウンダリーがある
自己と他者の間に心理的な境界線「バウンダリー」を引くことができる。自分にとって何が重要なのかをはっきり理解して、それに集中している。