会社に人生を捧げる日々
ゴールドマン・サックスは食うか食われるかの世界だ。6年以上働いていれば、誰もがヴァイス・プレジデントの肩書になる。ほとんどの人は、その地位どまり。ゴールドマンには何千人とヴァイス・プレジデントがいる。選ばれた少数者、約8%の社員だけが、マネージング・ディレクターという役職に就くことができる。
そのためには昼も夜も、そして人生さえも、会社に捧げなくてはならない。家族にもまともに会えない365日。権力者自らが人種差別や男女差別をする社風の中、耐え難い環境で働かなくてはならない365日。ゴールドマンの神たちから目の前に次のボーナスをぶら下げられる365日。
仕事以外の生活を楽しむ時間はほとんどない。1つだけいいことは給料だ。年に一度、ボーナスの支給日になると、1人1人会議室に呼ばれて、パートナーからボーナスの金額を伝えられる。もらいすぎではないかと思うほど、莫大な金額が振り込まれる。
新しい年度が始まると、ゴールドマンにおける私たちの価値は一旦ゼロに戻される。またスタートラインから頑張らなくてはならない。私たちの口座には何百万ドルという金額が振り込まれたばかりなのに、上司は私たちのことを無能だとみなし、それを私たちに知らしめようとする。どれだけ会社のために稼ごうと関係ない。私たちを雇うことができたゴールドマンがラッキーなのではない。ゴールドマンに雇ってもらえている私たちがラッキーなのだ。
ゴールドマンで働く人々
ゴールドマンの部屋は、高校の教室とさほど変わらない。そこにいる人たちの気質はよく似ている。セールス&トレーディング部門の人たちは、さしずめスポーツ選手。リサーチャーやストラテジストは、おたく気質。スプレッドシートや調査レポートにじっくり目を通し、市場の先行きを予測するのが好きな人たちだ。バンカーはいわゆるお坊ちゃん・お嬢ちゃんタイプ。完璧な着こなしで品のいい話し方をし、フォーチュン500の企業のCEOに、いつでも買収のアドバイスができるよう準備を怠らない。
この2つのタイプの人たちはロッカーの場所にもこだわりがあるし、経営幹部のオフィスのすぐ近くに自分の席を持ちたがる。とはいえ、経営幹部はいつもそこにいるわけではない。彼らは世界中を飛び回り、顧客にゴールドマンを売り込んでいる。とても忙しい人たちで、彼らのアシスタントには、さらにアシスタントがついている。
ゴールドマンの仕事
ゴールドマンで昇進していくと、それなりのスキルというものが必要になってくる。毎朝6時には出勤し、ヘッジファンドが次に狙いそうな株を予測するためニュースに目を通す。その後、チームメンバーと共に顧客の保有株式を調べる。借りられそうな株をどれくらい保有しているか調べて、必要な株数を確実に借りられるようにする。そして、双方をつなぐ。つまり、借りた株をヘッジファンドに貸すのだ。各取引にかかる手数料の差額が利益になる。一度の株の貸付けで受け取る手数料はそう多くはないが、すべての取引をトータルすると何十億ドルもの収益になり、それが積み重なっていく。
こうした取引を1日中している。席から離れるのは食事や水分を摂る時と、トイレに行く時だけだ。顧客と食事をする時以外は、朝食も昼食も自分の席で食べる。市場が引けた後は、オペレーション部門に連絡をして、すべての取引が成立しているか確認する。それが終わると、次の日の仕事の準備をする。
夜はほぼ毎日、顧客と夕食を食べに行ったり飲みに行ったりする。機関投資家といい関係を築くことは、ビジネスにとって欠かせないからだ。機関投資家が株を貸す先をお気に入りのブローカーにすることは時々あるが、もっと多いのは、ステーキのディナーや高級ワインでもてなしてくれたところに貸すというパターンだ。顧客とのディナーのことを「株のためのステーキ」などと言った。家に帰る頃には深夜の12時を回っているが、朝の4時半には起き、また同じような1日を始める。
ゴールドマンの名前がなければ何者でもない
ゴールドマンでは、女性が退職する前に、よく一緒に食事をした。キャリアを積めそうな仕事はすべて男性に割り振られてしまうので、自分にはチャンスがないと言っていた。会社の価値観が自分とは合わないと言っていた女性もいた。まるで、ゴールドマンの女性には賞味期限があるかのようだった。男性のように長期間勤めて成功するのは無理だと言われている気がした。
長時間労働はきつかった。常に疲れ切って、ストレスを抱えていた。週末になると、忙しい平日には考えないようにしていたことが頭に浮かんだ。私が望んでいたのは世界をより良い場所にすることであって、金持ちをもっと金持ちにすることではない。
「ゴールドマンを辞められるのは一度きり」。キャリアを続けていく中で、この言葉は何度も頭によみがえることになる。