ATTENTION SPAN デジタル時代の「集中力」の科学

発刊
2024年3月26日
ページ数
364ページ
読了目安
544分
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デジタル環境における集中力のコントロール方法
PCやスマホなどのデジタル機器が人間の集中力や認知機能のどのような影響を与えるかを研究してきた著者が、その研究内容を紹介し、現代における集中力に関する問題を解説している一冊。

マルチタスクなどによって、注意散漫になり、ストレスが多い現代のデジタル環境において、どのように心理的バランスをとり、幸福度を向上させるかについて、その方法が紹介されています。デジタルデバイスの画面を見続けている生活をどのようにコントロールして、仕事と心のバランスを取るのかのヒントが書かれています。

認知リソースの量は限られている

私たちの精神には集中や認知リソースの汎用的な蓄えがある。人が情報を処理する時にはこのリソースが必要となり、リソースの蓄えには限度がある。認知リソースが枯渇すると、短期的に成果が落ちる。私たちが疲れを感じてミスをし始めるのは、この有限なリソースを後先考えずに使い、利用可能な量を超えてしまうからだ。大量のメールやメッセージ、電話を処理し続けて、まともに休憩を取らなかった午後3時には、集中を維持するためのリソースが減り、実行機能がソーシャルメディアの誘惑に負けるのを止められなくなるのだ。

 

利用可能な量を超えてリソースを要求されると、成果に影響が出る。活動に伴う認知負荷は、認知リソースへの要求に比例すると考えられている。さらに異なる種類のタスクには異なる認知リソースが使われる。視覚、聴覚、空間処理にかかわる複数のタスクでは、それぞれ別のリソースを使う。同じ種類のリソースを奪い合う複数のタスクでは相互干渉が大きく、特にタスクを頻繁に切り替えなければならない場合、間違えずに実行するのはかなり難しい。私たちが集中したい時に何度も邪魔が入り、複数のタスクを切り替えていると、疲労困憊してしまうのはそのせいだ。

 

一度使ってしまった集中リソースを回復するには、補充するしかない。休憩をとってリフレッシュしなければならない。例えば、週末をくつろいで過ごし、たっぷり睡眠をとった後、月曜の朝に仕事に戻れば、認知リソースは充分回復しているはずだ。記憶と集中の維持に役立つ適度な深い睡眠とレム睡眠を含む一晩の眠りは、リソースの補充に不可欠だ。ストレスの多い状況から心理的に解放された人も認知リソースを回復する。たった20分自然に触れるだけでも、心身がリフレッシュするのだ。

 

現代のデジタル環境は認知リソースを枯渇させる

複数の異なるタスクの間で集中を切り替えていると、1つのタスクの内的表象を次のタスクの内的表象へと再設定しなければならない。こうした表象はスキーマと呼ばれる、ある活動の行動パターンを記した台本のようなものだ。タスクの切り替えは、心の中のホワイトボードに書かれていることを一度消して、新しいタスクの注意事項を書くようなものだ。このため、たびたび中断されると、スキーマを頻繁に設定しなおさなければならない。これによって、認知リソースは消費される。

 

「動的集中」とは、複数のアプリやソーシャルメディア、インターネットのサイトなどの間で集中が活発に切り替わっている状態を指す。動的集中は、それ自体良いものでも悪いものでもなく、人間の現実世界の集中行動の1つである。だが多くの点で、これはデジタルメディアが生み出す豊富な情報と私たちを注意散漫にする事象への適応反応であり、限られた集中力を効率よく割り当てようとする働きだと言える。そして、ほとんどの場合、私たちはこの動的集中をうまく使いこなせておらず、このままでは様々なストレスや疲れ、成績低下が生じ、燃え尽き症候群になりかねない。なぜなら、素早い集中の切り替えが認知リソースを消費し、枯渇させてしまうからだ。

 

集中をうまく管理する

集中のリソースは有限であり、たやすく注意散漫になってしまうことを考えると、私たちは集中を意識的に使う選択をしなければならない。環境と状況に応じて柔軟にバランスを取る必要がある。理想は「懐中電灯」の光を自在に調節できる状態である。つまり、動的集中を使いこなす能力を身につけて、外部または内部の重要な事柄に対応し、必要に応じて集中力を維持し、認知リソースが減れば単純な作業に切り替えるのだ。

 

集中力をうまく管理するには、外部からの中断をコントロールすればいい。中断の処理のタイミングを自分でコントロールできると、成績も生産性も最高になる。集中の方向を意識的に決めることができれば、認知リソースもうまく管理できる。集中の方向を変えるのに最も適したタイミングは、タスクの「切りがいい」ところだ。

未完の仕事が溜まっていくと緊張も持ち越され、認知リソースをますます消費する。未完のタスクは私たちの思考の中で渦巻く。そのストレスを減らすには、未完のタスクを記憶の外に出してしまうことだ。つまり、中断したタスクに関する情報を何らかの形で心の外に記録する。重要な未完のタスクについては、優先度や完成度、次の作業手順などをメモに書き残したり、ボイスメモに録音したりすると、望ましくない緊張を外部に移し替えられる。

 

私たちは、デジタルデバイスを使って生産性を最大化するというこれまでの目標を、生産性を最大化しながら健康的な心のバランスを保つという目標に切り替えていかなければならない。

心理的バランスを保つには、自分の集中力をコントロールするための主体性を身につけ、それを使い続ける必要がある。自分の認知リソースと感情を充分に考慮しながら1日のスケジュールを立てれば、目標を具体的に意識し続けることができる。