世界で最も貧しい国の1つ
モザンビーク共和国は、インド洋沿いに約2500kmの長い海岸線を持つ、アフリカ大陸南東部に位置する共和制国家である。人口は2967万人。1975年に独立するまではポルトガルに統治されていたため、公用語はポルトガル語である。近年は天然ガスの開発や農業生産などの投資対象として注目が集まっている。
モザンビークは、世界で最も貧しい国の1つである。保育、教育、所得という3つの側面から各国の開発度合いを示す人間開発指数において、188カ国中181位。国民の70%が、生活に必要なモノを購入する最低限の収入を示す指標である貧困ラインより下に位置している。
そんなモザンビークの農村で、日本植物燃料という会社はビジネスをしている。村に電気は通っておらず、ほぼ自給自足の生活をしている農民たちには、本当に微々たる現金収入しかない。
バイオ燃料生産から銀行業へ
日本植物燃料は元々、植物燃料の製造・販売をする会社としてスタートした。そして以前、政府開発援助の一環として、モザンビークで土地を確保して、現地の人々を雇い、キュウリやトマトなどの作物を作って市場で売るという仕事をしていた。当初はバイオ燃料と関係なく始めたが、開発した生産性の高いヤトロファの品種とモザンビークでの農業経験を活かせば、現地にバイオ燃料の生産拠点を作れるとの確信を得た。
事業モデルは、現地の村人にヤトロファの苗木を育ててもらい、そこから採れた種を買い取って、搾油してバイオ燃料にして売るというもの。バイオ燃料の販売先は、まずはモザンビーク国内をメインとすることにした。しかし、実際には、モザンビーク国内でバイオ燃料を使っている人など一人もいなかった。そのため、事業の根本である「市場」から、自分たちで作り出す必要があった。このことが、後の電子マネーの導入、さらに銀行業の可能性の発見へと繋がっていった。
電気のない村に銀行をつくる
今は、モザンビーク人スタッフを含め30名程度で村づくりに参加している。植物燃料による電力の供給、農作物の買い取り、栽培の指導、日用品を売るキオスクの経営、学校建設の支援、さらに電子マネーを使った銀行を作ろうとしている。
電気のない村には、これまで銀行がなかった。銀行口座を持たない村民は、主に農作物を売って手にした現金を、自宅の地面に埋めるなどして保管していた。また、彼らがお金を送金したいと思ったら、半日かけて銀行がある街まで移動するか、そこに行く知り合いにお願いするか、乗合バスの運転手に預けるしか選択肢がなかった。そこには常に盗難や紛失のリスクが付きまとう。電子マネーを使えば、こうした人たちも、自分の村にいながらにして安全に、簡単に貯蓄や送金をすることができる。
構想している「新しい仕組みの銀行」では、預金者へは金利を約束せず、一方で融資を受ける人から複利の貸出金利を取ることもしない。メインの収入源は、電子マネーを使って買い物をする際などの決済手数料とするモデルである。預金者個人に金利という形で還元を約束しない代わりに、決済手数料などで得た収益の20%を預金者に還元する。但し、分配する先は、個人に1%、村に19%。村に分配した分は、インフラや事業の設備投資などに使ってもらう。長い目で見れば、個人に還元するよりも、村にまとまった投資をする方が、村人全員の生活水準が向上するはずである。
アフリカの農村部は、どこも似ていて、その7、8割は自給自足に近い農業をして暮らしている。その最貧エリアで、ソリューションを確立できれば、アフリカ中に横展開できる可能性が生まれる。