誰かの課題ではなく、直感に従う発想が求められる時代
現代は誰かの課題を解決するビジネスではなく、直感に従う発想のビジネスが求められる世の中になった。これからは誰かの課題を扱っている限り、新しいフェーズにはいけない。誰かの課題でなければ、何を取り扱うべきか。その答えが自分の感性、すなわち次の3つである。
- 直感:新たなアイデアやソリューションの創出において、知識や経験に依存せず、創造性や洞察を活かす能力
- 共感:ユーザーのニーズや感情を理解し、それに合致したソリューションを発想・提供する能力
- 官能:感触、視覚、音、香り、味の五感を通じた体験のこと。製品やサービスとユーザーの精神的な結びつきを醸成し、強めてくれる要素
これらを組み合わせて取り入れたイノベーションは、市場において競合との差別化と優位性を築くのに役立つ。そして、感性を用いてビジネスを展開するための方法論の1つがアーティスト思考である。
アーティスト思考とは
アーティスト思考とは、プロミュージシャン時代のアーティストとしての経験をベースに、過去の偉大なミュージシャンを中心とした芸術家たちの活動や発想、作品を芸術の歴史と照らし合わせて学び、ビジネスアイデアに活かす思考のプロセスを指す。
アート思考とアーティスト思考には明確な違いがある。アーティスト思考は「アーティストが作品を創り出す主観的で創造的なプロセス」に焦点を当てている一方で、アート思考は「成果物としてのアート作品」に焦点を当てた考え方である。アーティスト思考は、アーティスト自身の創造的なプロセスに関連しており、アイデアの発展や表現方法の探求など、アーティスト独自の視点や創造力に関連した要素を含む。アーティスト思考は主観的で個人的であり、芸術家自身の独自の視点やアイデンティティに大きく影響される。
一方のアート思考は、芸術作品そのものに焦点を当てたものであり、その作品が伝えるメッセージや意味をどう解釈するかである。アート思考は客観的で、異なる観客や文脈に対する作品の影響を検討することが含まれる。
創造性とは体系化された理論なしに存在することは難しい
イノベーションとロジックは相互に影響する。イノベーションは創造的な発想や新しいアプローチによって生まれ、イノベーションからは柔軟で効果的なロジックが生まれる。ロジックはアイデアを実行可能な形に整え、イノベーションを体系化し実現させる手段にもなる。同時にイノベーションとはロジックを知り、壊しながら生み出すものである。壊すためにはロジックとは何かを知らなければならない。芸術もビジネスも、その点は同じである。
音楽では、人間が聴覚的に心地よく感じる音が体系化されている。音楽における自由な表現の象徴である即興演奏とは、体系化された理論が背景にある創造物である。一見すると相反するようだが、理論なくして即興演奏を表現することはできない。
ビジネスも同じで、音楽のように自分が心地よいと感じるものを体系化していく発想が求められる。自分を表現するには感性やセンスなどではなく、過去を知ってロジックを身につけることが重要である。
理論は創造性を支え、深化させる役割を果たし、創造性によってアーティストは自分のビジョンをより意識的に構築し、表現を通じて他者と共有できるようになる。ビジネスも同じで、イノベーションを起こすには、経営学や経済学といった理論を知り、身につけることが基本である。理論はクリエイティブなアイデアの土壌であり、アイデアを実現可能性が高い計画に変えてくれる。
イノベーションを起こす3つのアクション
①見て盗み、習得する
偉大なアーティストは他のアーティストや作品の良いところをある意味で盗んでいる。芸術とは過去との連続的な対話とイノベーションの産物であり、模倣や借用は芸術の進歩には不可欠である。
盗む価値のポイントは感動にある。喜怒哀楽を引き起こすような強い「何か」がないかひたむきに探してみることである。
②多角的な視点と発想を持つ
「目に見えるものだけが全てではない」というのが、アートの世界においては大きなテーマだった。視点を変えることはアーティスト思考の体現における重要なアクションである。
③発想の回帰をする
人間には「硬直マインドセット」と「しなやかマインドセット」という2つの思考態度がある。「硬直」は自分を良く見せようとするがあまりに挑戦を避け、早々に諦めてしまうという相対評価的な思考のこと。「しなやか」は学びたいという欲求から進んで挑戦し、努力も熟練への通過点であるという絶対評価的な思考である。
人が「硬直」に陥るのは、周囲からの価値観の押し付けが原因である。子供の頃に憧れたヒトやコト、モノを思い出して、なぜ好きだったかを考え、キーワードをリスト化すると、当時のフラットな気持ちに戻ることができる。