Invention and Innovation 歴史に学ぶ「未来」のつくり方

発刊
2024年3月15日
ページ数
288ページ
読了目安
518分
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必ずしもイノベーションは成功するとは限らない
メディアによって過剰にもてはやされる「イノベーション」について、過去の失敗事例から、冷静に教訓を引き出している一冊。

歴史的に見て、当初は期待されながらも、結果的には失敗に終わった発明は数知れない。イノベーションへの過剰な期待を煽る論調に対して、警鐘を鳴らし、「イノベーションは加速化している」といった主張など、イノベーションに対する数々の誤った認識を取り上げて、正しい理解をすることが大切だと説いています。

過去の失敗や教訓から学べ

発明における成功とは、私たちが連綿と努力を続けてきた結果の1つに過ぎない。当初は世間に受け入れられていた発明が失敗する例もあれば、「この発明が市場を支配する」という大胆な夢がいつまで経っても実現しない例もある。数世紀にもわたって開発に取り組んだところで、数十年が経過しても思い描いていた商用化に近づかない例もある。

 

昨今「新たな発明による進歩がますます加速化していく」という見解が詳述されるが、こうした主張は誇張が過ぎる。私たちは、現代の技術の進歩から、以下の基本的な教訓を学ぶべきである。

 

①あらゆる大きな進歩、広く普及した技術には、何かしら懸念すべき点がある

②商用化を最優先にしたり、便利だが明らかに最善の技術ではないものを導入すると長期的に見れば成功しない

③ある発明が最終的に受け入れられるか、商業的に成功するかは、初期段階では判断できない

④発明に困難な課題が伴い、潤沢な資金を得て根気強く開発を続けても、成功の保証がなければ懐疑的な態度をとるべきである

 

ところが、現実を知り、過去の失敗や教訓となる経験から真摯に学ぼうとする姿勢は、たとえそれが謙虚な姿勢であろうと、現代社会ではますます受け入れられなくなっている。

 

失敗したイノベーション

①歓迎さえていたのに、迷惑な存在になった発明

努力を重ねて研究を続け、ついに実現した時には賞賛され、急速に商用化され、世界に受け入れられたのに、その数十年後、結局は望ましくなく、人間にも環境にも有害であるという証拠が挙がり、当初の目的での使用が禁止された発明。

  • 有鉛ガソリン:内燃機関がノッキングを起こしにくくなったが、排ガスの中に神経障害の原因となる重金属が含有
  • DDT:殺虫剤として普及したが健康被害が発生
  • フロンガス:冷蔵庫の冷媒として利用されたが、オゾン層を破壊することが判明

 

②主流となるはずだったのに、当てがはずれた発明

当初はそれぞれの市場を最終的には独占するだろうと予想されていたが、結局は期待はずれに終わった発明。

  • 飛行船:安価な長距離航空輸送を可能にすると期待されたが、ジェット機が代替
  • 原子力発電:市場を独占すると期待されていたが、安全性の面から普及率は低迷
  • 超音速旅客機:過剰なコストという欠点が利点を上回らなかった

 

③待ちわびているのに、いまだに実現されない発明

大規模な商用化が進めば世界を一変させるほどの変革がもたらされると高く期待されたが、実現していない発明。

  • ハイパーループ:真空状態のチューブ内を高速移動するというアイデア
  • 窒素固定作物:大気中の窒素分子を固定化して利用する収穫量の高い穀物
  • 核融合発電:太陽が膨大なエネルギーを放出する極限状態を地球で再現し、その熱を発電に利用する試み

 

発明において広範かつ急速な指数関数的成長は全く見られない

あらゆる成長のスピードを大勢の人が誤解している。「ある変数が指数関数的に増える」とはどういう意味かを、そもそも誤解しているからだ。「指数関数的成長」とは同じ期間に同じ率で量が増えることを指す。よって、その率が極めて低ければ、相当な違いがわかるようになるには長い時間がかかる。指数関数的成長とは必ずしも急速に成長していることを意味するわけではない。

 

半導体エレクトロニクスの急速な指数関数的進歩ほど、発明のペースとイノベーションの普及に関する現代の考え方に影響を及ぼし、かつ歪ませたものはない。急速な指数関数的成長は、マイクロプロセッサにより可能になった活動や、そうしたサービスを大衆に提供する企業にとっては象徴的なものである。しかし、コンピュータから携帯電話まで、マイクロプロセッサとそれに付随するデバイスの性能の指数関数的成長は、あくまで例外であり、近年の発明の波に共通する現象ではない。

 

さらに重要なことは、1970年代以降の電子回路設計と電子機器の性能の向上がどれほど賞賛されようと、私たちの日常生活のほぼすべての場面において、このようなスピードで進展を遂げたテクノロジーはない。穀物の収穫量、エネルギー効率、輸送の速度、大規模な工学プロジェクトの完遂、新薬開発の成功確率や長寿の実現など、健康や生活の質を左右する重要な要因についても、貢献していない。急速な指数関数的成長は、現代文明の存続に関わる基本的な経済活動の進歩に寄与していないのだ。

 

望ましくない現実を改善するには、何も輝かしい発明などいらない。大局的に見れば、既存の手法を改善し、それを誰もが利用できるようにする方が、より短期間でより多くの人たちが恩恵を受けられるようになる。それは発明に過剰なまでの期待を寄せ、奇跡のようなブレイクスルーが起こるのを待つよりよほどいい。